Japan 2 Earth

トヨタが探る「意外な可能性」 エンジンは消えるのか

This post is also available in: English

世界的な脱炭素の潮流の中で、二酸化炭素(CO2)を排出するエンジン車に代わり、電動車シフトが進む。 だが、こうした動きに抗(あらが)うかのように、トヨタ自動車が異なるアプローチで脱炭素化に動いている。水素エンジン車の開発だ。

トヨタが水素エンジンの技術開発に取り組むと発表したのは2021年4月。 しかも実用化に向けた課題の洗い出しのために、「カローラスポーツ」をベースにした水素エンジン車両で 5月に開かれる24時間耐久レースに参加すると表明し、業界に驚きが広がった。

燃やしてもCO2が出ない水素を燃料とする自動車には、水素と空気中の酸素を化学反応させてつくった電気でモーターを回す燃料電池車(FCV)があり、 トヨタも「MIRAI」を販売している。 これに対して水素エンジン車はガソリン車と同様、

エンジンを動力源とする。

FCVは、排出されるのが水だけで「究極のエコカー」とも呼ばれる。 一方、水素エンジン車はエンジン部品の摩擦を減らすエンジンオイルが燃焼する際にCO2を発生するが、その量はわずかだ。

日本には日本の

とはいえ、自動車各社は電気自動車(EV)をはじめとする電動化を推進している。 トヨタも2030(令和12)年に電動車の世界販売台数を800万台とし、うち200万台をEVとFCVにする目標を掲げる。

水素エンジン車の開発に取り組む理由は何か。

「私たちのゴールはカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量実質ゼロ)であり、 その道は一つではない。日本には日本の道筋があるのではないか」。水素エンジンの開発を発表したのと同じ日、日本自動車工業会の会長として会見したトヨタの豊田章男社長はこう強調した。

日本は欧州などに比べ、電源に占める火力発電の比率が高い。 EVは走行時にCO2を排出しないが、日本の電源構成では必ずしも脱炭素につながらない。 しかも、エンジン技術は日本メーカーにとって、壊れにくいという信頼性や高い燃費性能を実現する最大の武器だ。 水素エンジンは、その武器を生かせる脱炭素技術となる可能性がある。

ガソリン車1台で使われる部品は3万点といわれるが、 EVになればエンジン部品を中心に1万点程度が減るとされる。 エンジン部品メーカーの経営に大きな影響が出ることは避けられず、30万人もの雇用が失われるとの試算もある。

水素エンジン車の開発には、脱炭素化に伴う雇用への影響をできる限り抑えたいとの思いもうかがえる。

今までの体験

肝心の水素エンジン車の実力はどうなのか。

トヨタの水素エンジン車は5月のレースを皮切りにこれまで3戦を戦い、いずれも完走している。 車の性能を極限まで引き出そうとするレースでの過酷な使用条件に耐え、完走できたということは、水素エンジン車が一定レベルにあることは間違いないだろう 。

一方で課題も浮き彫りになっている。 FCV「ミライ」は水素タンク3本で合計141リットルの水素を積み、航続距離は約850キロ。 これに対して、タンク4本(合計180リットル)の水素を積んだ「水素カローラ」は9月のレースで528・4キロを走行し、合計11回水素を充塡(じゅうてん)した。

航続距離が課題であることは明白だ。

それでも、FCVに欠かせない高価な白金などを使わずに済み、 コストを抑えられるメリットがある。

06年からロータリーエンジンによる水素エンジン車をリース販売していたマツダも、丸本明社長が「必要に応じて活用していく」と明言している。 [hydrogen engines]

商用車との相性

これまでのレース参戦を通じ、トヨタは水素エンジン車に意外な可能性を感じている。 低速でも大きな動力を出すことができ、「商用車に向いている」(広報部)というのだ。

長距離走行が求められる大型トラックのEV化には、多量のバッテリーを搭載しなければならず、 コストや充電時間を考えると実用には困難が伴う。航続距離の課題を大容量タンクで克服できれば、大型トラックの脱炭素化に道を開くかもしれない。

水素エンジン車の開発は時間との闘いだ。 長年、水素エンジンの研究に携わってきた東京都市大学の三原雄司教授が「市販できる可能性は十分にある」と話すように、

脱炭素の選択肢になり得る技術であることは間違いない。 だが、EVシフトが進む中で、早期に実用化の可能性を示せなければ巻き返しは難しくなる。 トヨタがレースという過酷な「実験室」でテストを繰り返しているのも、開発時間の短縮のためにほかならない。

トヨタが水素エンジン車の試作車をつくったのは2020年末。 それからほぼ1年で、水素エンジン車はどこまで実用に近づいたのか。 水素カローラは再びレースに挑む。

関連記事

筆者:高橋俊一

This post is also available in: English

モバイルバージョンを終了