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ブランド化する「脱炭素」 企業がこぞって取り組む切実な理由

Solar power is often one component of corporate decarbonization plans. Komekurayama Solar Power Plant in Kofu City, Yamanashi Prefecture (© Sankei by Takashi Hirao).

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企業が工場など生産現場でのカーボンニュートラル(脱炭素)へ向けた取り組みを加速させている。脱炭素というと太陽光発電などの再生可能エネルギーが注目されがちだが、生産工程の効率化や仮想空間を使った脱炭素のシミュレーション、水素の活用など、取り組みは多岐にわたる。二酸化炭素排出量ゼロで醸造したことをPRする日本酒も登場するなど、脱炭素への対応はビジネス上の戦略として不可欠なものになりつつある。

ロボットで自動車塗装

ダイハツ工業は10月、約50年ぶりに大規模改修した主力の京都工場(京都府大山崎町)を報道陣に公開した。軽乗用車の「トール」や「ブーン」のほか、親会社であるトヨタ自動車の「プロボックス」などを生産しており、改修後の生産台数は従来より10万台増える年間23万台を見込む。工場は脱炭素への対応をコンセプトとしており、約350億円をかけて、これまで別々だった塗装と組み立て工程を集約した4階建ての新工場を建設した。

大きな変化はロボットの導入による塗装工程の無人化だ。ロボットによる正確でミスの少ない塗装と、静電気を使って車体に塗料を引き寄せる技術によって空気中に飛び散る塗料を大幅に削減。これにより、塗装に不可欠な低湿度に調整された塗装ブース内の空気の約50%を再利用できるようになり、二酸化炭素削減につながった。

また、塗装工程は防塵服への着替えや洗浄など人への負担が大きく、工場で現場を管理する社員は「自動化によって作業の時短、従業員の負担減、脱炭素の3つのメリットがあった」と効果を説明する。

組み立て工程では、負担のかかる歩き作業をなくすための従業員用のコンベヤーの設置や、年間で何万枚にもなっていた紙の指示書をタブレットで確認できるように変更。体に負担がかかったり、煩雑だったりする作業を改善することで、生産の効率化を図った。

ダイハツによると、効率化によって車1台当たりの生産時間は約30%削減。再生可能エネルギーの導入などと合わせることで、二酸化炭素排出量は令和7年には平成25年比で58%削減できる見込みという。

工場の自家発電に水素

仮想空間に現実の世界を再現する「デジタルツイン」を脱炭素に活用するのが日立製作所だ。

同社の大みか事業所(茨城県日立市)では、約900カ所に設置した電力センサーによって、工場内の消費電力を可視化している。これに製品に内蔵した電子タグやカメラによって製造工程を可視化したデータなどを組み合わせることで、工場のどこでどれぐらいの二酸化炭素が排出されているか把握できるようになる。こうして工場の二酸化炭素排出量を仮想空間上でシミュレーションし、脱炭素のための施策の効果を検証できる。令和6年度までに大みか事業所で得たノウハウを同社が販売する工場向けの脱炭素ソリューションに転用する予定という。

一方、パナソニックホールディングス(HD)は今年4月、草津工場(滋賀県草津市)で、水素で発電する燃料電池と太陽光発電、蓄電池を組み合わせて工場の消費エネルギーを100%再エネ化する実証実験を開始した。

燃料電池による電力供給に加え、日中は太陽光発電でサポートし、余った電力は蓄電池に蓄える。3種類の電池を連携させることで、天候に左右されやすい太陽光発電のデメリットを解消する仕組みだ。また、工場内で必要な電力を賄うことで、発電所からの送電によるロスもなくせるという。同社は「工場での自家発電に水素を本格的に活用するのは世界初の試み。水素の活用という選択肢を検証を通じて提案していきたい」とする。

「三方よし」の経営実現

脱炭素に取り組むのは大企業だけではない。酒造地として知られる神戸市東灘区にある酒造会社「神戸酒心館」は10月、醸造工程での二酸化炭素排出量実質ゼロを達成した日本酒「福寿 純米酒 エコゼロ」を発売した。

神戸酒心館の「福寿 純米酒 エコゼロ」

電力会社から再エネ由来の電気を調達するなどして、醸造で使うエネルギーのカーボンゼロを実現。さらに酒米を削る精米歩合を70%から80%に変更し、酵母を替えることで醸造日数を通常の約1カ月から1週間短縮してエネルギー消費量を抑えた。海外への輸出も含め、年間7万本の出荷を目指す。

同社では脱炭素だけでなく、以前から工程の省力化や省エネ化に取り組んでいる。日本酒造りというと、寒さの厳しい夜明け前から職人が作業をするイメージがあるが、遠隔監視システムなどを導入することで従業員の負担を軽減し、若者が働きやすい環境を構築している。湊本(みなともと)雅和支配人は「今後、脱炭素はお客さまが商品を選ぶ上での重要な要素になる可能性が高い。労働環境も含め、サステナブルな経営を目指している」と話す。

企業の脱炭素化へ向けた取り組みが加速している現状について、近畿大経営学部の辺成祐(ビョンソンウ)准教授は「環境問題への意識の高まりを受けて、生産現場と脱炭素のつながりを認識する企業が増えたのではないか」と指摘する。生産現場や工程の改善は、これまで品質向上やコストの削減のためという認識が強かったが、「脱炭素も同じぐらい重要なもの」と考える企業が増えたという。

その上で「日本には『三方よし』という考え方がある。企業、消費者、世間のすべてにとって良い経営が脱炭素への取り組みを通して実現できるのではないか」と話した。

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