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生物が分解できない微細なプラスチックごみ「マイクロプラスチック」は、世界中の魚の体内から見つかり、生態系や人の食生活への影響が懸念されている。これまでは、水中を漂う天然の餌と見誤ってのみ込んだと考えられてきたが、長崎大の最近の研究で、マイクロプラスチックは漂流しながら、魚にとって魅力的な状態に「変身」すると判明。魚は誘惑に負け、誤飲どころか、餌として積極的に食べようとすることを、世界で初めて突き止めた。
魚類約500種から検出
マイクロプラスチックとは、大きさ5ミリ以下の微細なプラスチックの破片や粒のことだ。石油から製造されたレジ袋や食品容器、ペットボトルなどのプラスチック製品の一部がごみとなって川や海に流れ込み、紫外線の影響や波の力で細片化することで生じる。北極から南極に至る地球全体の川や海に漂っている。
マイクロプラスチックは微細なため、海洋生物が餌と間違えてのみ込むことが多いとされてきた。世界で約500種の魚類の体内から見つかっており、日本では、東京湾のカタクチイワシの約8割から、平均2~3個見つかったという報告がある。
のみ込んだ生物は、消化管が傷ついたり、栄養を十分に摂取できなくなったりする可能性があり、生態系に悪影響を及ぼす。また、マイクロプラスチックは水中の有害物質を吸着しやすいとも報告されており、有害物質を蓄積した魚がもし食卓に上ったら、人体への影響も懸念される。
こういった背景から、長崎大チームは、水中でマイクロプラスチックがどのように変化し、それに対して魚がどのように反応するかを検証する実験に挑んだ。
もぐもぐと100秒間も
チームはまず、マイクロプラスチックとして直径3~4ミリの発泡スチロール球を大量に用意。これを、ごく一般的な金魚である「和金(ワキン)」10匹を飼育する水槽に、餌のように与えた。だが、金魚は全く見向きもしなかった。
続いて、発泡スチロール球を、キャンパス内の池からくんだ水に漬け、約1週間ごとにすくって金魚に与えた。すると12週目、金魚の5%が発泡スチロール球を、まるで餌のように口に入れるようになった。時間がたつにつれて口に入れる比率は増え、20週目には約30%、実験の最終週となった22週目は、約50%が発泡スチロール球を口に入れるようになった。
また、発泡スチロール球をもぐもぐと口に入れている時間の長さも、週を重ねるにつれて延びていった。口に入れ始めた12週目は40秒ほどだったが、22週目になると、約100秒まで延びた。
池の水に漬ける期間が長くなるとともに、金魚が発泡スチロール球をまるで餌のように取り扱う様子がだんだん強まったように見える。いったいなぜこんなことが起きたのだろうか。
ケイ藻の魅力で「誘惑」
長崎大の八木光晴准教授(水産学)は、「野外の池の水に漬けたマイクロビーズの表面には、バクテリアなどの微生物がつくる『バイオフィルム』と呼ばれるごく薄い被膜のような層が形成された。これが鍵だった」と種明かしをした。
バイオフィルムは、約5週で発泡スチロール球の表面を完全に覆う。こうなると植物プランクトンが付着しやすくなり、時間がたつにつれて、バイオフィルムの上に、金魚の餌となるケイ藻などが厚い層をつくっていくという。
その結果、金魚は魅力を増しておいしそうになった発泡スチロール球に誘惑され、積極的に口の中に入れて味わうようになったわけだ。誘惑に負ける境目となったのが12週目で、その後、ケイ藻が多くなるにつれて「もぐもぐタイム」も長くなったらしい。海洋でも、マイクロプラスチックの表面にバイオフィルムが形成されると報告されており、魚に対する魅力を増す仕組みは同じだという。
ただ、今回の実験で、発泡スチロール球が消化管までのみ込まれることはなかった。使った金魚が全長約8センチと小型で、直径3~4ミリの発泡スチロール球は大きすぎたからとみられる。そのためチームは今後、大きさ1ミリ未満のマイクロプラスチックを使い、海水魚を対象に同様の実験を行って検証する。
八木准教授は、「水中を漂う時間が長ければ長いほど、マイクロプラスチックが魚に摂食されやすくなることを世界で初めて実証できた。プラスチックごみの自然環境への流出を、一刻も早く食い止めなければならない」と話した。
(伊藤壽一郎)
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