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大正12(1923)年に起きた関東大震災から、今年で100年となる。死者・行方不明者は約10万5千人を数えた。近代日本を襲った最悪の自然災害は、関東地方南部を震源域とするマグニチュード(M)7・9の大地震による激しい揺れと、台風による強風が重なった複合災害だった。
プレート(岩板)境界で発生する海溝型地震だが、震源域は陸域を含むため、海溝型の東日本大震災(平成23年)と、内陸直下型の阪神大震災(7年)を合わせたような地震災害でもあった。
対策の徹底と強化図れ
日本列島は地震の活動期にあるとされる。南海トラフや日本海溝・千島海溝沿いで起こるM8級以上の海溝型地震の切迫度は高く、首都直下地震をはじめM7級の内陸地震はいつ、どこで発生してもおかしくない。
一方で地球温暖化による気象の激甚化で「数十年に一度」や「これまでに経験がないほど」の豪雨や猛暑、寒波などの気象災害に命と暮らしを脅かされる頻度が高まっている。
激甚化と複合によるこの「大災害の時代」を生き抜くために、関東大震災の教訓を生かし、防災対策の強化に取り組みたい。
昨年末のクリスマス寒波で、新潟県内では豪雪による大規模な車両の立ち往生が発生した。あの状況で大地震が起きたら―。想像するのも恐ろしいが、避難行動や救命・救助活動が平時とは比べものにならないほど困難になることは間違いない。
複数の自然災害が同時、または立て続けに発生すると、単独の災害発生時とは桁違いの甚大な被害をもたらす場合がある。
関東大震災では、昼食どきの地震で多発した火災が、日本海に中心があった台風による強風にあおられ、竜巻のように炎が渦巻く火災旋風が発生した。10万5千人の震災犠牲者のうち、9万2千人は焼死だったとされる。
今の日本は、このような複合災害のリスクが極めて高い状況にある。豪雨、地震や火山噴火などが重なる事態を「起こり得ること」と認識しなければならない。
あらゆる複合災害を想定して完璧に備えることは不可能だろう。しかし、地震、津波や水害への備えを徹底することで、複合によるリスクは小さくできる。
例えば、家屋の耐震化や火災予防対策を先送りにしない。家具の固定を再確認する。豪雨による災害が予想されるときは、雨が激しくなる前に避難する―など、これまでの防災対策を再検証し、複合のリスクを念頭に置いて備えを強化することが大事だ。
「気象防災の日」制定を
関東大震災は火災被害があまりにも甚大であったため、被害の全体像はあまり知られていない。
火災以外の原因による震災犠牲者約1万3千人のうち、家屋の倒壊による死者は1万1千人にのぼり、阪神大震災の地震による直接の犠牲者の2倍に相当する。
また、相模湾や伊豆半島東岸は地震から数分後に最大10メートル超の津波に襲われ、箱根、丹沢などで多くの土砂災害も発生した。津波による死者は200~300人、土砂災害による死者は700~800人と推定される。
津波に襲われた伊豆半島の下田などでは、元禄地震(1703年)や安政東海地震(1854年)の被災体験が生かされ、流失家屋数に比べて人的被害は小さかったという。
家屋の耐震化の重要性、そして自分が住む地域で起こり得る災害について知ることの大切さを、改めて銘記したい。
関東大震災が発生した9月1日は昭和35年に「防災の日」と制定され、大地震を想定した避難訓練や啓発活動が行われてきた。
「1・17」や「3・11」、世界津波の日(11月5日)など、防災の日以外にも地震、津波について学び、備える契機はある。
水害をはじめとする気象災害についても、これらに相当する日を設けるべきである。気象記念日であり、列島が本格的な雨季に入る時季でもある「6月1日」を、その候補として挙げたい。
地球温暖化に急ブレーキはかけられない。今後も続くであろう気象災害の激甚化を見据え複合のリスクを最小化するために、国民と政府、自治体が連携して気象災害に備える契機となる日を、防災の日とは別に制定すべきだ。
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2023年1月8日付産経新聞【主張】を転載しています
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