「すみません、家が停電で・・・子供連れて来てもいいですか?」
出社するなり苦笑しながらお願いしてくる女性スタッフ。後ろに隠れながら、2人の小さな子供が不安そうに私を見上げている。
もう連れてきているんじゃないの、今さら断れませんよね。
亜熱帯気候に属する首都ハノイの盛夏は、口で息をすると歯が染みるほどの暑さ。
さすがのベトナム市民も、昼夜を問わずエアコンをかけっぱなしで過ごす。こんな時期に計画停電だ。
当然のごとく会議室を開放することに。
ベトナムで年に一番電力需要が逼迫する酷暑の6月。
毎年、定例行事のように政府からの節電要請がCMで溢れるこの時期に、ダムの貯水率が著しく低下。
山岳部の多いベトナム北部には大企業の工場が集積しているが、その電力供給の17%は水力発電で賄っている。その稼働率がなんと一気に20%台に。
ダムの水が干上がるのと同時に、電力の予備率も底をついてしまった。
結果、大規模な計画停電を敢行しつつ雨降りを待つことに。
日照りが続くと途端に電力供給が回らなくなる。
その理由は、2050年までに「カーボンニュートラル」を実現するために、ベトナム政府は従来主力であった「計算出来る」石炭火力の発電割合を50%以下に抑え、その代替電力を「読めない」再生可能エネルギーに割り振っていく、そのギリギリの供給体制下で見舞われた異常気象。
まさに泣きっ面に蜂状態だ。
泣きそうになっているのは一般市民だけではない。
大企業の工場が集積する北部工業団地の管理マネージャも深刻な電力不足に頭を抱える。
ベトナムを席巻するホンダのバイク。その部品を提供している製造会社の工場長さん曰く、
「環境に優しいホンダのエンジンには欠かせない部品を我々は作っていますが、供給を維持する為にディーゼル発電機を複数台持ち込み、フル稼働させて対応しています。立ち上る黒煙を見上げながら、複雑な気持ちになります」
私達は一体どこにむかっているのでしょうね、と自嘲気味に話す。
経済発展を最優先に掲げる東南アジアの国において、経費のかかるクリーンエネルギーと、実態経済を確実に動かす為の石炭火力発電とを、ゼロカーボンを見据えながらどう両立させていくか。
難しい舵取りを迫られている。
そんなベトナム北部の電力不足を補うために、日本の丸紅がベトナム政府の要請により、北中部Thanh Hoa省で石炭火力発電の強化に取り組んでいる。
「脱石炭火力」の考えと合わせて近日中にこのサイトでご紹介します。