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古来人に寄り添い、農耕や運搬などで活躍してきた馬。近年、子供への癒やしや、環境保護、地域活性化などにも活躍している。自然環境と人間の生産・経済活動を仲立ちし、心にも寄り添ってくれる-。そんな頼もしくも優しい馬に着目した取り組みがじわりと広がっている。
賢い動物
天理大学(奈良県天理市)の馬術部にいる9歳のポニー「てんてん」は、子供たちの人気者だ。「たてがみが光を通してとてもきれい。馬に乗るのは高くて怖いけど気持ちいい」と小学4年の男児(9)。
市内の児童発達支援事業所「チャレンジまなびや」に通う児童・生徒約20人が隔週で訪問し、てんてんや年老いたサラブレッドの計4頭とひと時を過ごしている。
「馬は非常に賢い動物。人にそっと寄り添う優しさを持っている」と同部アドバイザーの角居勝彦さん(59)。天理大では令和元年度から、馬とのふれあいを通して子供たちの心をケアする「ホースセラピー」を続けている。
今年4月には、JRA(日本中央競馬会)の補助金を活用してホースセラピーの特別講座を開講。同大の学生以外でも受講でき、馬との接し方から、歴史、解剖学、法制度などについて角居さんや、ホースセラピーの第一人者、局博一・東大名誉教授が講義する。
角居さんはJRAの元調教師で、何頭もの馬と別れを繰り返してきた。サラブレッドは国内で年間約9千頭が生まれるが、競走馬から引退後、乗馬クラブなどで余生を過ごすのはほんの一握りで、多くは「処分」される。ホースセラピーの場が増え「引退した馬が一頭でも多く、穏やかな余生を過ごせたらすばらしいこと」と角居さんは話す。
馬糞が素材
馬に癒やされた経験を持つ辰巳遥さん(34)は、ビジネスチャンスも馬でつかんだ。経営する「ホースドロッピングス」(大阪市)は、馬糞(ばふん)から取り出した繊維で紙を作っている。和紙に似た風合いが持ち味で、名刺やしおり、はがきなどに使う。
辰巳さんは元看護師。多忙を極めた病院勤務で健康を損ねて退職し、療養中に通った市内の乗馬クラブで癒やされたという。ついには競走馬のふるさとである北海道浦河町へ移住。地域おこし協力隊として平成27年から活動を始めた。
そして牧場で廃棄される馬糞を見てふと考えた。「インドでは象の糞から紙を作っている。繊維質を多く含む馬糞でもできるのではないか」。構想約4カ月、同28年夏に開発に成功した。
馬糞を2~3週間乾燥させてにおいをとり、水と石灰で4~5時間かけて煮出して繊維を取り出す。そしてパルプ、水と混ぜ合わせると紙が出来上がる。
心臓疾患のため協力隊任期中に浦河町を離れたが、事業は大阪の自宅兼工房で続けた。「キャンディファーム」(浦河町)や淡路島の観光牧場「シェアホースアイランド」(兵庫県洲本市)から乾燥馬糞を取り寄せ、繊維を取り出し、和紙工房「松鹿」(同県淡路市)に紙すきを依頼している。
すいた紙で作った製品は、協力先の牧場や浦河町の観光協会、ホースドロッピングスのホームページで販売。引退競走馬の支援をする「TCC Japan」(滋賀県栗東市)が4月下旬、東京・表参道にオープンのカフェでも取り扱うという。
パートナー
木曽馬や道産子がのんびり草をはむ姿がみえる奈良県大和郡山市の「はたらく馬牧場」。丘陵地に広がる牧場は約1万平方メートルにおよび、果樹園や棚田もある。馬は土を耕し、雑草を除去し、山林の手入れで出る間伐材を運搬するのに欠かせない。
牧場長の松川一人さん(61)は「人馬一体という言葉があるように、古来、馬は人の大事なパートナーだった」と話す。松川さん自身、和歌山県にある祖父母宅で、幼いころから田畑や山で働く馬に触れ世話をしてきたという。牧場では、松川さんが主宰する起業塾出身の若者たち10人が馬の世話をしている。
牧場で大阪市内の保育園の遠足を受け入れたり、企業や自治体に馬を生かした観光振興や地域活性化策の講義に出向いたり、と「馬とともに生きる」をテーマに活動する松川さん。「馬を生かすことは地域創生につながる」と指摘する。
筆者:木村郁子(産経新聞)
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■目標3「すべての人に健康と福祉を」
あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する。
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