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シュークリームや「かまくら」のようなコロンとした構造物。ツルツルとした素材感から一見テントかと思うが触ると硬く分厚い。これは「LIFULL ArchiTech(ライフルアーキテック)」(東京都千代田区)の「インスタントハウス」だ。室内の快適性と簡易な設置からグランピングをはじめ、さまざまな場面で活躍し始め注目を集めている。
迅速、簡易、高性能
インスタントハウスは、基礎や柱、屋根などで構成される一般的な建築物とはまったく異なる。ポリエステル製テントシートの外壁とザラザラしたウレタンの内壁で全体を支え、扉や窓もあり、まるでファンタジーの世界に登場する「小さな家」のようだ。
特長は施工時間の短さ。大きさによるが1棟3~6時間ほどで完成する。外壁を膨らませたところに内側からウレタンを何層も重ねて吹き付け、凝固することで形状を作る。重なり固まった約10センチのウレタンが、断熱性と構造を最適に保つ。基礎は作らず、地面や土台にビスで固定させる。屋根部分の傾斜は積雪しづらい45度で、風も逃すので台風にも強い。
同社共同代表で名古屋工業大大学院の北川啓介教授が、平成23年の東日本大震災の被災地を訪れたとき、被災者から仮設住宅がなかなか建たないことへの困惑の声を聞いた。これをふまえ「迅速かつ簡易に性能が高い建築物」を作るべく産学連携の共同研究のもと開発が進められた。
快適に眠れる寝室
インスタントハウスの基本サイズは3種類。カップルや家族連れなどに適切なSサイズは、5平方メートルだが高さは3メートルあり、立ち歩くことに不便はなく広々と感じる。20平方メートルのLサイズはベッド4台に加えソファも置けるゆとりがある。
インスタントハウスを「快適に眠れる寝室」と表現する共同代表の幸田泰尚さん。「暑い日は扇風機を使い、寒い日はストーブをつければ北海道でも半袖で過ごせる」といい、温度や湿度を一定に保ち、雨音などの環境音も防ぐ快適な住環境。結露もしないのでカビも発生しにくいという。
現在は法人向けの販売のみのため、グランピングでの利用が多いという。
改良重ね用途拡大
法的には建築物ではなく、海岸や山の上などさまざまな場所への展開が可能で、その特長を生かした利用方法はまだまだ広がる可能性を秘めている。「要望をいただくところに最適化し改良を重ねている」と幸田さん。さまざまな声に寄り添いながら新たな可能性を模索している。
地域の防災備蓄倉庫、ランニングマシン室やダンススタジオ、シミュレーションゴルフなどへの活用も。発達障害の人などがパニック症状になったときに気持ちを落ち着かせる「カームダウンルーム」として国内外の施設なども検討している。
2月に発生したトルコ・シリア大地震では、トルコに3棟を設置。被災者からは快適性に加え「デザインがかわいいとほめられた」という。日常の風景が一変する中、曲線的なたたずまいが安らぎとなり得るのかもしれない。
「本当の復興支援は仕事を作ること」とし、資材の現地調達や設置などの技術を伝え、被災地の雇用創出につなげることを探っている。
電力の自給自足を目指すオフグリッド実証実験にも参加し、エネルギー問題への関わり方も検証した。ウレタンで断熱性を高めるノウハウを転用することで「場所を問わず食料を作れる環境を効率化できる」と食料危機への応用も視野に入れている。
「地球の課題を解決するプロダクトにしたい」。身近な宿泊施設から未来を救う社会課題の解決まで。手軽なインスタントハウスが重要な役割を担う日も近いかもしれない。
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