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水問題の構造的な解決に挑む日本のベンチャー企業

WOTA CEO Yosuke Maeda explains water issues leading up to 2040 and solutions, August 31, 2023, Tokyo. (@JAPAN Forward by Hidemitsu Kaito)

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「日本では当たり前に水道の蛇口をひねれば安全な水が出る」と思われているが、これは世界でも特別な例だ。世界では、水道設備がない暮らしをする人が人口の25%もいる。  

日本のベンチャー企業WOTAは、水問題の構造的な解決に挑んでいる。大規模な土木・建設業型モデルではなく、製造業型モデルとして独自開発の水処理の自律制御技術を使い、水の安全性を常に制御・監視しながら運用する小規模で効率的なビジネスモデルを提案している。

世界の水問題

国連は2015年の総会で、2030年までに「安全な水とトイレを世界中に普及させる」というSDGs(持続可能な開発目標)を設定した。

地球上の人口増加に伴い、水の使用量が増えている。同時に、産業発展で生活レベルが向上し、使用する水量は増加傾向にある。また、工業排水や生活排水が河川や海、地下水の汚染につながっている。都市化による開発は自然の水源破壊の影響も及ぼす。東京都の試算では、家庭で1人が1日に使う水は214リットルとされる。

地球上の水の97%は海水で、飲み水として利用できるのは地球全体の0.01%以下とされる。

WOTAの前田瑶介CEO(11月24日撮影)

地球温暖化による気候変動でも降水パターンが激しく変動し、水不足に悩む地域を新たに生み出すことになる。干ばつによる砂漠化進行も深刻だ。2030年には世界人口の4割以上が水不足に陥るという危惧がある。

また、世界では水の配分や所有権に関する争いも絶えない。

こうした中、WOTAの前田CEOは世界の水問題を3段階で捉えている。最初の段階は、乾燥地域、上下水道が普及していない地域など、水の需要がありながら供給が絶対的に不足している状態。第2段階は、水の利用が増えた一方で処理されていない排水が流出することにより水源などの汚染が進む状況。そして第3の段階は、先進国など上下水道は普及しているが、地域によっては過疎化が進み、そうした地域で水の供給・管理に財政的な問題が生じる状態。特にこの段階では、人口規模が少ない地域ほど、水道の施設費用、下水処理費用などのコストが料金収入を上回るなど、財政収支のバランスが崩れるケースが出てくる。

WOTAはこれらのどの段階・領域でも提案できる解決策を考えている。

中学生で水問題に関心を持つ

前田CEOは小学生の頃から自然科学が好きで、中学2年生の時に書いた論文が中高生向けの科学コンテストで最優秀賞を受賞。その特典で米国立衛生研究所(NIH)に派遣され、アル・ゴア元副大統領のスピーチを聞いて感化され、環境問題や水問題に関心を持ち、高校では水処理の研究に取り組んだ。その後、東京大学工学部建築学科に進み、大学では都市インフラや途上国スラムの生活環境を、大学院では給排水衛生設備を研究した。

小規模分散型システムの開発

前述したように、人口が増えて都市化が進む段階では、数十年をかけて水道管の敷設、浄水場や下水処理場の設営という大規模投資が必要になる。その一方で、人口密度が低い過疎地も出てくるが、この地域への敷設はコストが見合わないこともある。

WOTAの着眼は、給水・排水処理事業を大規模な土木・建設業型から製造業型の小規模な水インフラ・システムとして解くことにあった。ファブレス型で企画・開発に特化し、小型で投資額も小さくてすみ、設置は簡単で、電源があれば水道のない場所で水利用を可能にする水再生システムだ。

WOTA BOX本体(写真提供:WOTA)

その製品の1つが「WOTA BOX」だ。本体重量は約80kg。ポンプ内臓型で、100リットルの水を用意すれば、その水を繰り返し使用して排水の98%以上を循環利用でき、紫外線の照射と塩素系消毒剤によって99.9999%以上の細菌とウイルスを除菌してくれる。処理された水はWHO(世界保健機関)飲料水水質ガイドラインの水質基準を満たす安全性がある。初めて設置する場合でも、約15分で設置できる。一定使用量でフィルターの交換などが必要だが、メンテナンスやマニュアルもフロントディスプレイで表示され、操作の簡単さが図られている。

災害現場でも活躍

ポータブル水再生システム「WOTA BOX」は災害現場でも有効活用されている。2018年に開発が始まり、2019年には製品が完成。その頃日本を襲った地震、台風、豪雨の現場でWOTA BOXは人々の生活を救った。簡易テントとセットになったWOTA BOXは電源と一定量の水さえあれば繰り返し活用でき、水の供給が途絶えた災害現場で機動的にシャワー施設に代わった。前田CEOは「水の供給がなく、困った状況でシャワーを浴びることができて、被災地の方に少しでも笑顔が戻った」と改めて水の価値を感じさせられたという。

WOTA BOXの「シャワーキット」(写真提供:WOTA)

WOTA BOXは日本の地方自治体に導入も進んでおり、これまでに27カ所の災害避難所で2万人以上の被災者に利用された。給⽔⾞の⽔は現場で消耗されるが、WOTA BOX の⽔は繰り返し利⽤されて被災地の衛⽣⾯で寄与した。

トルコ・シリア大地震で国際緊急援助隊が携行したWOTA BOX (2023年2月トルコにて、写真提供:JICA)

また海外でも、2023年2月のトルコ・シリア大地震で派遣された国際緊急援助隊(JDR)が WOTA BOX を隊員の現地活動用の資機材として携行して利用された実績がある。

WOTA BOXは、世界最大の技術展示会CES 2024(2024年1月、ラスベガスにて開催)にて、優れたデザインと技術を評価する「CES 2024 Innovation Awards」を受賞した。

WOTAのもう1つの製品が「WOSH」だ。これはドラム缶スタイルの水循環型手洗いスタンドだ。18リットルの水を使い、500回の手洗いが可能だ。これもフィルター交換式で、独自の水処理自律制御技術で常時監視・制御してくれる。また、スマートフォンの除菌機能も備わっている。国内の自治体をはじめ、企業や商業施設での導入が増えている。

住宅規模の全排水に対応したソリューションへの挑戦

WOTAは「WOTA BOX」と「WOSH」の2商品を展開しているが、前田CEOの視野には、過疎地域での水問題の解決策がある。人口減少の進む地域において、住宅向け小規模分散型水循環システムの実証実験を通じて、地域が抱える水インフラの課題解決に取り組む。日本国内では東京都の人口約300人の離島や愛媛県の3市と連携した実証実験で、今後悪化が見込まれる水道財政の改善に向け、有効性を証明する。

WOTA BOXもWOSHも、独自の水処理自律制御技術で常時監視・制御してくれる。(写真提供:WOTA)

都市型の大規模集中型システムが有効な地域と、小規模分散型システムが有効な地域は、人口分布や必要な施設配備、老朽化など様々な要素を見ていく必要がある。WOTAは使用データの蓄積からのフィードバックをもとにした改善や量産効果などで事業総コストを少しずつ減らしていき、普及の可能な地域を広げていく想定だ。

WOTAの技術は海外でも求められている。カリブ海諸国で水不足に悩む国、アンティグア・バーブーダ政府とも水問題解決に向けて基本合意書を締結した。WOTAは2021年に英国王立財団から環境に関する「アースショット賞」で水問題解決のための革新的アイデアが評価されて「ウィリアム王子特別賞(当時)」を受賞した縁で、英王室からアンティグア・バーブーダの件を紹介されたのだ。その他にも、中東、オーストラリア、インドなどでの展開も検討されている。

インタビューに応えるWOTAの前田瑶介CEO(2023年11月24日、都内のWOTA本社で)

日本には世界に誇れる水処理技術がある。海水の淡水化技術、下水処理技術、耐久性ある水道管技術など。これらの元々ある強みに対して、WOTAが取り組むセンサー技術や制御技術が加わると、さらに可能性が広がる。

前田CEOは、「日本人が得意とする水に関する技術と製造業が培ってきた技術が融合することで、一層世界の役に立てるようになる。環境に関するソリューションは世界に繋がり、輸出が可能な分野。水問題を通して、人類の可能性にチャレンジしていきたい」と熱く想いを語った。

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