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日本製鉄が、二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に減らす次世代鉄鋼生産技術の開発を進めている。鉄は通常、酸化した原料の鉄鉱石から、石炭(炭素)との化学反応(還元)で酸素を取り除いてつくるため、1トンの鉄生産で約2トンのCO2が出る。次世代技術は石炭の役割を水素で代替するもので、同社は開発用の試験設備でCO2排出を33%削減する世界最高水準の成果を上げた。
開発しているのは「高炉水素還元」という技術。政府の「グリーンイノベーション基金」を使って新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進する研究事業で、日鉄が中心となって取り組んでいる。
鉄鉱石を原料とする生産設備の高炉は1500度にも達する高温条件で鉄を量産する。石炭による還元は熱を出す発熱反応のため、還元と鉄の溶融を連続的に行えるが、水素還元は熱を奪う吸熱反応のため、高炉の温度が下がり、還元が続かず、鉄も溶け出なくなる。その対策として水素を高温にして高炉に吹き込む方法が考えられるが、燃えやすい水素の特性上、どんな設備でどの程度の温度に水素を温めるかは難しい。
さらに、石炭使用を前提とする高炉の構造では「水素による炭素の100%代替は困難で、水素投入に伴い炉内では発熱と吸熱の反応が並行して進む未知の温度変化も起こる」(日鉄グリーン・トランスフォーメーション推進本部総合企画部の堀見泰資参与)。
日鉄はこの2つの〝温度の壁〟を最適に制御する高度な技術で、吹き込む水素の増量と温度制御の最適化の両立に挑戦しており、目指す高炉における50%以上のCO2削減の実現へ着実に前進している。
鉄の量産設備は高炉と、鉄スクラップを電気で溶かす「電炉」の2つが主流で、脱炭素に向けて現在は生産時のCO2排出が少ない電炉の利用が拡大傾向にある。ただ、「流通する鉄スクラップの量では世界の鉄鋼需要は満たせない」(堀見氏)。令和22年頃を見込む高炉水素還元技術の実用化は、暮らしを支える鉄の安定供給に欠かせない取り組みだ。
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