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人口減少に伴ってごみ処理施設の統合が進む中、施設のあり方が変わりつつある。老朽化に伴って各自治体は新たな場所への建設を模索するが、騒音や悪臭などへの懸念から住民らが反対し、難航するケースも少なくない。そんな中で導入が進んでいるのが、ごみ焼却の排熱を利用した「ごみ発電」の機能を備えた処理施設だ。得られた電力を公共交通に利用するなどの活用法も広がっている。
老朽化した焼却炉が停止
「ごみ処理場が迷惑施設というイメージを払拭したい」
奈良市の仲川げん市長は今年2月、ごみ焼却の際に発生する熱を利用する発電所を併設した新たな施設「クリーンセンター」の構想を発表した。
人口35万人を抱える中核市・奈良市では、老朽化したごみ処理施設の移転が喫緊の課題となっている。現在の「環境清美工場」(同市左京)は、昭和57年に稼働を開始。焼却炉の耐用年数は一般的に30年程度とされているが、すでに40年超。近年は故障で炉が停止するトラブルも発生し、市外や奈良県外で処理する局面もあった。
同工場を巡っては、周辺住民が環境問題を訴え、平成17年に市との間で速やかな移転を目指す内容を盛り込んだ公害調停が成立。市は原則、移転新設せざるをえなくなっており、市民や有識者で構成する委員会が移転先を検討したが、難航した。市は人口が減少していくことを踏まえ、周辺市町との広域連携で建設する方向を探ったものの、それぞれの住民側と折り合わないなどして他の市町が離脱し、頓挫した。
この過程で、奈良市七条地区が移転先の有力候補地となり、市が単独での建設を目指すことに。しかし地元から反対の声が上がり、またも難航の兆しが見えていた。
状況を打開しようと仲川市長が打ち出したのが、発電所を併設するアイデアだった。
エネルギーの有効利用も
環境省によると、人口減少などに伴って全国のごみの総排出量も減っており、平成25年度は4487万トンだったのが令和4年度は4034万トン。焼却施設数も平成25年度の1172施設から1016施設まで減っている。
一方で各地の施設は老朽化し、建て替えが進む。そうした中で導入が進むのが、焼却の排熱を利用した「ごみ発電」だ。発電設備を備えたごみ焼却施設は4年度、建設中や休止中を含め404施設に上った。同年度の年間総発電量は1万331ギガワット時で、約260万世帯の年間電力使用量に相当するという。
発電とごみ処理を同時に行い、焼却だけの場合に捨てられていたエネルギーを電力として有効利用できる。火力発電での化石燃料の使用を減らすことになり、二酸化炭素の排出削減につながっている。安定した発電が期待できるのもメリットだ。
得られた電力をさまざまな用途に活用する取り組みも始まっている。
栃木県では昨年8月、宇都宮市~芳賀町間を結ぶ次世代型路面電車(LRT)が開業した。宇都宮市内のごみ処理施設で発電した電力や市民から買い取った太陽光発電の電力を活用し、すべて再生可能エネルギーで賄われる。年間で約9千トンの二酸化炭素削減効果が見込まれており、「乗るだけで脱炭素に貢献できる」という。
秋田県横手市では老朽化した3カ所のごみ焼却施設を発電所併設の新施設に統合し、平成28年から運用を始めた。生み出した電力を処理施設の動力に活用し、ごみ焼却のエネルギーで新たなごみの処理を進める。余剰電力は売電するほか、寒冷期には構内の通行路の地中に敷設したパイプに焼却熱を利用した温水を流し、凍結を防ぐ。
埋め立て地不足にも有効
ただ、奈良市の場合は、クリーンセンターの構想発表後も住民らや議会からの反対が相次いでおり、着地点は見えない。
新エネルギーの開発や導入に向けた調査や研究を行う一般財団法人「新エネルギー財団」の村田英美主幹は「ごみをエネルギーとしてリサイクルできるだけでなく、燃やすことでごみの体積も減らせる。首都圏ではごみの埋め立て地が確保しにくくなっており、今後の手段としては有効だ」と指摘し、「議会や地元に対してごみ発電のメリット、デメリットの双方を明示し、『こんなことができる』と説明して理解を得ることが最も重要だ」と話した。
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