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鳥のさえずり響くブナ林の中。磨かれた金属板をのぞき込むと、青々とした若葉が映し出された。
山形県朝日町の「空気神社」。その名の通り空気をご神体にまつる、宗教法人ではない「神社」だ。かつて山伏が修験道として歩いた朝日連峰の麓。地上に社殿としてステンレス製の板が置かれ、鏡面に周りの景色が映ることで空気が表現されている。
この一風変わった神社の歴史は、昭和40年代後半、地元の農家、白川千代雄さんが「山のきれいな空気の中で仕事をしていると平地より疲れにくい。空気に感謝しよう」と主張したことから始まった。
白川さんは、前例のない空気をまつった神社の建立を地域の会合や町の広報誌などで訴えた。しかし、当時は環境意識に乏しく、「神社は他にもいっぱいある」と理解を得られなかった。
「祖父は、とにかく変わりものでした」
白川さんの孫、由美香さん(61)は、そう振り返る。子供のころ、多趣味で博識だった白川さんから植物の知識など多くのことを教わった。「今思えば見えている世界が他の人と違った。考え方も時代を先取りしていたのかも」
建立の機運が高まったのは白川さんが昭和61年に73歳で亡くなった後だ。
町に自然を楽しむレジャー施設の建設計画が立ち上がるとともに、神社建立奉賛会が発足した。多くの町民も協賛金という形で賛意を表した。設計コンペで金属板を林の中に置くという独創的な案が採用され、平成2年、神社が完成した。
以降、空気を大切にする考えは広まり、町は国連の世界環境デーでもある6月5日を「空気の日」に制定。毎年その日に、空気の大切さを再認識する「空気まつり」を開催している。
静かな境内で深呼吸し、鏡面をのぞき込む。映し出されるのは風にそよぐ青葉と輝く木漏れ日。見えないはずの空気が一瞬だけ見えたような気がした。
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