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春に原野火災が多発する秋田県のミステリー!? 背景に過疎と高齢化、農山村の深刻な実情

Area burned by a wildfire in a mountain village in Akita Prefecture on April 15 sprouting new life on May 1. (©Sankei by Tomohiro Yatsunami)

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秋田県では雪が消えると各地で原野火災が頻発する。多くが休耕地や山間の草地などで、通行人や近所の人が煙に気付き通報する。人がいない場所で出火? まるで秋田の春のミステリーだが、実は背景に農山村の過疎と高齢化があり、下草焼きの際に十分な防火態勢を組めないのだ。下草焼きを行えずに藪がはびこり、里地里山が消失する危機さえ迎えている。

枯れ草の火が一気に

残雪の鳥海山を望む国道から1キロ余り入った山間の集落で4月15日、入会地などの枯れ草約4万5千平方メートルが焼け、ポンプ車など11台に消防団員も総出で5時間かけて消し止めた。

近所の女性によると「山菜がよく出るようにと、経験の少ない若い人が1人で枯れ草に火入れした。今年は雪が少なくカヤ類が立ち枯れたままたくさん残っていて、あっという間に燃え広がった。普通はそんな状態では火入れしないんだけど…」という。さらに「この近くでは昨年も年配の人が山で枯れ草を焼こうとして自分が乗ってきた軽トラックと隣の山まで焼いてしまった」と振り返る。

全国でも春に集中

県警生活環境課によると4月15日はここを含め県内で7件、同8日にも7件など、4月だけ計64件の原野火災が発生。令和に入ってから通年では元年が最多の105件、3年が58件で最少だが、多くが3、4月に発生。農作業小屋が類焼したり、現場にいた人がやけどを負ったりする被害も出ている。

焼け跡では灰が養分になってワラビなどの山菜が元気に育っていた=5月1日、秋田県鳥海山麓(八並朋昌撮影)

ほとんどは通行人や近所の住人が煙に気付いて通報しており、無人の場所から出火したようにも思えるが「自然発火などではなく、多くが農地の下草や果樹の剪定(せんてい)枝を燃やして広がったもの。燃やした当人は消火に大あわてで通報どころではないだろう」(同)と説明。

農作業に伴う野焼きは、やむを得ない場合に禁止の例外とされており、こうした背景を考慮してか、県警は原因について「捜査中」として公表していない。

4年版消防白書によると、原野を含む林野火災は3年に全国で1227件発生。原因は「たき火」「火入れ」に「不明・調査中」を加えて8割以上を占める。

白書は「空気が乾燥し強風が吹く2~4月に多く発生」と指摘し、6割の751件が集中している。ただ、秋田県などでは雪のある2月の発生は少ない。

県生活衛生課はこの気象条件に加え「春は農作業が活発になり、山菜採りも盛んになることが重なって原野火災が増えるのだろう」と分析する。

共同作業できず

鳥海山麓の原野火災現場を2週間後に訪ねると、森に囲まれた入会地は炭化したカヤ類に一面黒く覆われながら、ワラビやフキなど鮮やかな緑色の山菜があちこちで大きく伸び、タラの木も芽吹いていた。

地元農家の女性は「30年前まで下草焼きは集落の皆が出て予定地を囲い、燃え広がらないようにしながら順番に火入れした。今は皆年を取ってできなくなった」と打ち明ける。

そして「枯れ草を焼かないと山菜の出が悪いし、藪がはびこれば山に入れなくなる」とため息をつく。

里地里山は貴重

農地防災保全に詳しい秋田県立大の永吉武志准教授は「過疎と高齢化が進む農山村では近年、火入れ作業をするとしても少人数で、安全対策が十分とは言い難い面がある」と指摘。

半面で「火入れなどの行為は生態系維持に大切な中規模攪乱(かくらん)に相当し、多様な自然を生んでいる。人間が自然と共生して営々と築いたこの里地里山を原野に戻してしまうのは多大な損失だ」としたうえで、「火入れ作業などはイベントのようにして、他地域から参加者を募って行うのもいいのではないか」と話している。(八並朋昌)

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