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日本の製鉄業が脱炭素化のために、電炉法の活用や水素製造法への転換に向かっている。電炉法とは、鉄スクラップを原料として、主に電気エネルギーにより溶解、精錬して鉄製品を製造するプロセスで、高炉-転炉法―主に石炭で鉄鉱石を還元溶解―に比べ炭酸ガスの発生が少ないとされている。ここ数年日本国内の電炉法の割合は25%程度で、高炉-転炉法が主流である。また鉄スクラップは1990年代後半から輸出国に転じ、ここ数年では年間輸出量は700万トン程度になっている。今後は輸出している鉄スクラップを国内循環し電炉法を活用する方針に変え、さらに高炉での鉄鉱石の還元・溶解に石炭を用いていたものを水素に転換し脱炭素化を進めようとしている。
そこで、今年6月初めに、イギリス、トルコそしてドイツへ渡航し、ヨーロッパの電炉、鉄スクラップ事情を視察してきた。イギリスにはスクラップ取扱量世界第二位(年間800万トン)の会社があり、トルコには年産1,000万トン規模の電炉メーカーがある。
ドイツにはスクラップの海上・陸上輸送に欠かせない重機メーカーがある。また、ドイツは環境先進国、鉄鋼業の大先輩としても興味があった。ちなみに、ドイツ鉄鋼業は既に、製造法を水素へ転換することを宣言している。
一連の視察で日本の製鉄業の近い将来の状況を垣間見た感じがするが、気になったのは、本題ではないが、ドイツの重機メーカーのある人物からの話である。
重機を電動化してきたが、今後はバイオディーゼルを燃料にすることを考えているようだ。電力を再生可能エネルギーに転換中のドイツ、コスト高であることが理由のようだ。ついでの話として、EVカーが販売店から減少しているという。車載搭載電池に信頼性が無く、仕様書通りの走行距離が出ないことや、新車価格が高いうえに中古車市場が構築できないことが大きな理由のようだ。
そういえばEVカーは製造段階ではガソリン車に比べ2倍以上の炭酸ガスを排出するという記事を見たことがある。また、車載搭載電池の経時変化による性能評価技術はまだまだ開発中で、再利用に目途が立っていない。カーリサイクルという点では未知の状態だ。したがってEVカーがライフサイクルとして炭酸ガス削減にどれだけ寄与できるかは実のところよくわかっていない。世の中の報道ではEVカーの販売は拡大傾向とのことだが、こんな状況で進めてよいのか疑問となった。
ドイツ鉄鋼業の脱炭素化において、基本は電気を再生可能エネルギーから得ること、得られた電気で水を電気分解し水素を利用することになっている。化学工業においては電力会社と連携し再生可能エネルギーに由来の電気製造に進出している。再生可能エネルギーによる脱炭素化を考えてこの道に進んでいるが、現状の太陽光発電や、風力発電はいずれも森林破壊や生物の生息領域の侵略や生存に影響を与えている。ましてや太陽光パネルにおいてはそのリサイクル方法も課題がある。
翻って日本、EV化を進める自動車産業、インフラ整備を進める建設、エンジニアリング業界で脱炭素化を進めても、そこで必要になる素材を供給する鉄鋼業や化学産業などの素材産業のエネルギー問題を解決せずに、脱炭素化は砂上の楼閣。要は水素をいかに作るかが最重要課題。ドイツのように原子力発電を止めて再生可能エネルギーの電気にゆだねて良いか大きな問題である。単純にドイツと同じ方向に進むのではなく、原子力発電の課題や現状の再生可能エネルギーの課題を放置せず、新たな未来像の設計が必要だろう。
【櫻井 雅昭】1980年代より製銑技術者として30年以上鉄鋼業に従事。内米国鉄鋼業5年従事。資源循環業界で代表取締役社長、エンジニアリング業界で技監(Executive Fellow)を経験し現職
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