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「ペロブスカイト太陽電池フォーラム」が2024年11月26日に、横浜市と学校法人桐蔭学園の共催で行われた。基調講演を行ったのは、ペロブスカイト太陽電池の生みの親として知られる、桐蔭横浜大学・医用工学部の宮坂力・特任教授。最新の研究成果では、ペロブスカイト型の変換効率が結晶シリコン型と同等レベルまで向上している点など発表し、民間企業での量産化体制の加速に期待することを強調した。また、日本政府が2040年度にペロブスカイト型を累計で20ギガワット程度導入する目標を掲げたことにも触れ、政府の支援で良い環境にあることも歓迎した。
宮坂教授の報告では、ペロブスカイト型太陽電池の最新の変換効率は27%弱で、市場で95%
のシェアを占める結晶シリコン型の変換効率と同等レベルに達している。シリコン型とペロブスカイト型を複合したタンデム型では30%を超えた成果が見られる。
その他ペロブスカイトの特徴として、①屋内の弱い光でも発電する、②製造工程はシリコン型より簡単、③印刷方法により生成でき、軽量でフィルムのように曲がる柔軟性を持つ、などがあり、従来のシリコン型とは違った用途が考えられる。
宮坂研究室と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は共同で、宇宙放射線に対してペロブスカイトに耐久性があり、高空の低温下でも発電することを世界に先駆けて研究発表し、宇宙探査分野でも活躍の可能性が高いことを追究している。
2012年に個体型ペロブスカイト太陽電池を最初に発表した宮坂教授の研究室では基礎研究でペロブスカイトの実力が実証できたので、更なる社会への普及に向けて、民間企業の量産化に向けた研究開発を促した。
国内で原料が調達できるメリット
ペロブスカイト太陽電池は鉛とヨウ素を主な原料とする。ヨウ素は日本が世界2位の生産国で、原材料はほぼ国内で調達が可能だ。中国が主原材料国となるシリコン型に比べて安全保障上の優位性もある。
シリコン型に比べると少ない製造工程のため、製造コストが抑えられる可能性も高い。製造工程と廃棄物を考慮しても環境にやさしい。平地が少ない日本では、シリコン型は拡大余地が小さい。2011年の東日本大震災後に急速に普及したシリコン型の太陽光パネルは間もなく一斉に耐用年数を迎え、大量廃棄時代が迫る。
一方で、日本に代わってシリコン型太陽電池で世界シェアトップを奪った中国は11月上旬の全国人民代表大会でエネルギー法を可決し、国家をあげて再生可能エネルギー事業に力を入れる姿勢を見せている。
そうした中、日本政府も11月26日、日本発のペロブスカイト太陽電池について、2040年度に累計20ギガワット程度の導入目標を掲げた。これは原子力発電所20基分の発電容量、家庭電力の1割に相当する。政府の方針が後押しとなり、ペロブスカイトの研究開発には好条件が整った。
課題に取り組む民間企業
講演会では、シリコン型との複合のタンデム型を研究開発している企業、カネカの担当者も登壇し、将来このタイプは変換効率が40%を超える可能性も示唆した。カネカでは建設材料と一体化したモジュールの研究も進め、建物の壁材への応用も研究している。
フィルム型で先行する積水化学工業は2025年のペロブスカイト太陽電池の事業化を目指し、京都大学発のベンチャー企業、エネコートテクノロジーズはトヨタ自動車などから支援を受けて2026年にも量産工場を稼働する。パナソニックホールデングス(HD)も建材のガラスと一体化したタイプで26年にも事業化を目標にしている。
企業側の課題は、①大面積化の実現、②耐久性(寿命)、③廃材のリサイクル(鉛の回収)、④生産コストなどだ。
社会への実装では、建築物の側面や室内、自動車や鉄道・船舶、農業、セキュリティ用電源などさまざまな用途が想定される。主に平地に設置するシリコン型とは違った用途が考えられる。
横浜市は、ペロブスカイト太陽電池を「横浜発」とも強調している。環境省から委託を受けて横浜港の大さん橋に様々なペロブスカイトを設置して実証実験を行ない、潮風や湿度のある過酷な自然条件下での実験で、モニタリングなど周辺システムの開発にも挑戦している。
宮坂教授は、中国が国を挙げて積極投資し、シリコン太陽電池で世界を席巻した例を出し、日本がペロブスカイト太陽電池の国産化で優位に立つために、企業共同体(コンソーシアム)の必要性、スピード感を持って研究開発、設備投資と量産体制に入る勇気などを唱え、大学での基礎研究から実用化・商用化への研究開発へとバトンを企業側に渡した。過去に日本がシリコン型太陽電池で中国に主導権を奪われた苦い経験にとらわれずに、前向きに進んでほしいともエールを送った。エネルギー自給率が乏しい日本にとって、ペロブスカイト太陽電池の革新は転換のチャンスでもある。
ペロブスカイトに関しては、宮坂研究室が変換効率10%超を発表した段階から海外でも研究開発に拍車がかかった。その中には同研究室出身の研究者もおり、発信源は宮坂研究室なのだ。商業化に向けて、日本企業がどのような技術革新と企業努力を見せるかが問われる段階にある。
筆者:海藤秀満(Japan Forwardマネージャー)
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