Japan 2 Earth

タイ味の素とMUFGが描くウェルビーイング戦略

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バンコクで1月28日、タイの食文化を支えるタイ味の素の坂倉一郎社長(味の素アセアン地域統括社長)と、金融の力で社会課題解決をはかる三菱UFJ銀行・ケミカル・ウェルビーイング部の小杉裕司部長(肩書は取材当時)にESG(環境・社会・ガバナンス)について語ってもらった。

環境負荷50%削減のロードマップ

――タイ味の素は「2030年までに環境負荷50%を削減する」という目標のもと、温室効果ガス(GHG)排出量50%削減、プラスチック廃棄物ゼロ、持続可能な原料調達100%、2025年までにフードロス50%削減などを目指しています。現状を教えて下さい。(以下、敬称略)

坂倉 化石燃料からバイオマス燃料に転換、もみ殻を燃料とするバイオマスコジェネレーションを工場で導入し、自社が直接、間接に排出するGHGゼロをほぼ実現した。これからサプライチェーン全体で排出されるGHG削減に取り組む。プラスチック包装では、全商品の56%をリサイクル可能な包材に切り替えた。

熱く理念を語る坂倉氏(杉浦美香撮影)

栄養プロファイリングで健康課題解決へ

――タイ国民の糖分摂取はWHO推奨量の約4倍、塩分は1.6倍といいます。味の素は、日本の食文化をベースに開発した栄養プロファイリングシステム(ANPS)をタイの食文化に応用し、栄養バランスなどをスコアリングしています。

坂倉 タイでは、甘さより味の厚みやコクをつけるために砂糖を使っている。例えば麺店でも、麺やスープを選んだ後に酢や砂糖、唐辛子、ナンプラーをかけて自分好みにする。このカスタマイズで、塩分や砂糖を多く摂取してしまう。地域によっても食文化が違って共通化は難しいが、ANPSではタイの料理を10種類のカテゴリーに分けスコアリングしている。栄養分野で定評があるマヒドン大学と共同で科学的な裏付けを今年、確立したい。また、栄養課題解決には小さい頃からの栄養教育が重要だ。まだアイデアレベルだが今後、学校でANPSを展開したいと考えている。

ANPSで料理を10種類に分類した(味の素提供)

小杉 (味の素は)社会貢献のために栄養プロファイリングを作ったと聞いている。次のステップではどう認証していくかが重要だと思う。我々は「食」のルールメイキングに積極的に関わっている。金融機関という中立的な立場を生かしてルールメイキングに協力したい。

ルールメイキングについて語る小杉氏(杉浦美香撮影)

共に成長、キャッサバ農家を支援

――うま味調味料の原料となるキャッサバの生産農家を支援する活動に取り組んでいます。今後の展開を教えて下さい。

坂倉 味の素は、キャッサバの根茎で作られるタピオカスターチのタイ国内流通100万tのうち2割を使う最大のスターチユーザーだ。キャッサバ農家の存在が不可欠になる。しかし、気候変動やモザイク病というウイルス病の蔓延で収量低下などの問題を抱えている。原料を安定的に供給してもらうため、2020年から「タイファーマー・ベターライフパートナー・プロジェクト」を展開し、病害についての講習会を開催したり、土壌分析で感染の拡大を防いだりして支援をしてきた。参加農家は当初の180軒から1500軒に増えた。参加農家の収穫量が上がるのが嬉しい。

また、製造過程で発生するアミノ酸などの栄養をふんだんに含んだ副生物を活用した肥料を安価で農家に提供し、バイオマス発電で使う米のもみ殻の灰も土壌改良剤に再利用してグリーンな資源循環を構築している。次は、参加農家の収穫物を我々の工場で使えるようなトレーサビリティーを構築したい。

プロジェクトに参加するキャッサバ農家(味の素提供)

ウェルビーイングの様々な形

――味の素は「Leading in creation of Well-being」のビジョンを掲げていらっしゃいます。具体的に教えて下さい

坂倉 ウェルビーイングは大きい言葉なので、味の素が希求するウェルビーイングは何かを社員が自分たちで考えて話し合ってきた。環境だけではなく、「カスタマー(顧客)」「エンプロイー(従業員)」「ソーシャル(社会)」の3つの軸がある。サステナビリティを中核にすえた経営の象徴ともいえる。

――三菱UFJは部の名称をウェルビーイングにしています。こうした例は他にないのでは?

小杉 味の素さんと思いは近い。10年先を見すえた時、部としてありたい形がウェルビーイングだったため昨年10月、「営業第五部」という名称をケミカル・ウェルビーイング部に変更した。世界でもないと思う。

タイ進出65年の歴史と展望

――1960年にタイに現地法人を設立、味の素グループで 最高の売り上げと利益を上げていらっしゃいます。強みと課題を教えて下さい。

坂倉 味の素はタイのうま味調味料市場で9割のシェアを誇るなど、先陣が作り上げた3つのトップブランドを持ち、全国に毛細血管のように張り巡らされた販売網を確立、7か所にある工場全てで安定した生産活動をしていることが強みといえる。工場長は全てタイ人で、地域に根をおろしている。一方、課題は日本と同様に人口が減っており、影響は大きい。このため、高齢による筋肉の衰えを補完するアミノ酸を配分したサプリメントの開発など高齢化社会への対応を行う。

意気投合した坂倉氏と小杉氏(杉浦美香撮影)

「コツコツカツコツ」の精神

――座右の銘を教えて下さい

坂倉 日本の人事部門にいた時に講師として出会ったジョンソン・エンド・ジョンソン元社長、新将命 (あたらし・まさみ)さんの「コツコツカツコツ(勝つためにあきらめず努力する)」という言葉が好きだ。60年以上にわたり粛々と目の前の仕事をやり、結果を出してきたのがタイ味の素だった。その姿勢は変わらない。

食と金融という異なる業種がウェルビーイング分野でタッグを組んだ。より良き、幸せな未来に向け、両社が今後、どんな戦略を打ち出してくるのか。期待が集まっている。

筆者:杉浦美香(Japan 2 Earth編集長)

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