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トキの野生復帰検討会で2月、トキを観測、撮影し続けている私にとって驚きの発表があった。佐渡で2008年に野生下でのトキ放鳥が初めて行われて以来、順調に生息数を伸ばしていたが一気に約100羽数を減らしたというのだ。一体、何が起こったのか。
576羽から473羽に
いったん絶滅した国の特別天然記念物トキを日本の空に戻す取り組みの計画は、専門家らによる環境省のトキ野生復帰検討会で決められる。
2月9日に東京で開かれた検討会では、島根県出雲市で来年6月ごろ、放鳥することが決まった。石川県能登に次いで第2の本州での放鳥となる。
放鳥するためには、トキが生きられるように田んぼの農薬を減らしてトキのエサとなる小動物が生きていけるように環境を整えるなど農家の協力、住民の理解など地道な努力が必要となる。
出雲市の飯塚俊之市長は検討会に出席後、喜びの会見を行った。この様子はメディアに大きく報じられた。
一方、同じこの検討会で、2025年12月末時点で、佐渡の野外に生息するトキの推定生息数が473羽だったことが報告された。昨年、発表された前年同時期の推定生息数が576羽だったことから、1年間で約100羽のトキが減少したことになる。佐渡に移住してトキを撮影、観測してきた私にとってはこちらの方が大ニュースだった。
計算方法の見直し
環境省によると、減少には4つの要因が考えられるという。
一つは、推定生息数の算出方法を変えたことだ。
これまでは、過去6カ月以内に足環などで生存が確認された個体数を基礎に統計解析で計算する。計算は毎年12月に行っていることから、7月以降に放鳥された秋放鳥の個体は6カ月以内になるため、確認されなくても生存とみなして計算していた。推定生息数と現実との誤差が大きくなってきたことから、この6カ月ルールをやめ、ねぐらの一斉カウントなど、より正確になるように算出方法を変えたという。
もう一つは、放鳥数を減らしたことだ。これまでは年2回、計30~40羽を放していたが昨年は9羽にとどまった。
また、2025年は繁殖期に大雨など悪天候が続いたことや、天敵にヒナが捕食されるなどして、巣立ち数も前年の129羽から76羽と50羽あまり減少した。
さらに初放鳥から17年が経過し、寿命となる個体も増加しているという。
500羽が最適数か
思い当たることがあった。例年20~30羽の大きな群れを作っていたトキの群れが、昨年秋は10羽程度と小さくなっており、不思議に思っていたのだ。
週刊誌が、佐渡でトキの数が増え過密状態になっていると取り上げたこともあった。
トキの数が増えると、エサの配分が減り、繁殖を邪魔しあって自然と繁殖成績が落ちる「密度効果」が起きてしまう。環境の変化もある。佐渡の水田の面積は初放鳥時には6000haだったが、今では5000haに減少、餌場も減っている。
トキの生態を長年研究している新潟大学の永田尚志名誉教授は「昨年は、密度効果によって繁殖成績、生存率も落ちていた。推定生息方法を見直して実際の数字に近づいた」としている。そのうえで、今の佐渡の環境下では、500羽前後が最適数ではないかという。
自然は微妙なバランスの上になりたっている。これまでは生息数を増やすことを目的に放鳥計画が作られてきたが、これからは環境にあった放鳥計画へと方針転換の時期にきている。
5月には、石川・能登で本州初の放鳥が計画されている。放鳥の舞台はこれから本州へと移ることになる。
筆者:大山文兄(フォトジャーナリスト)
大山文兄(おおやま・ふみえ)産経新聞社写真報道局で新聞協会賞を2回受賞。新聞社時代に11年間にわたり、トキの野生復帰を取材。2020年に退社して佐渡島に移住、農業に従事しながら、トキをはじめとする動物の写真を撮り続けている。映像記者として佐渡の魅力を発信中。インスタグラムでフォローしてください。
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