LNG危機で切り札化期待 ガス大手が合成メタン製造本格化

Osaka Gas aims to demonstrate its methanation technology at the Expo, converting gas from food waste and hydrogen from renewable energy into synthetic methane.

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エネルギー大手が、二酸化炭素(CO2)と水素から都市ガスの主原料となるメタンを合成する「メタネーション」の技術開発を進めている。令和12年ごろの実用化を目指す大阪ガスは7年の大阪・関西万博の会期中、会場で出た生ごみを活用した合成メタンを調理場で使う計画だ。既存の都市ガスインフラを流用できる上、脱炭素の観点からも注目される技術だが、本格導入には課題もある。

メタン合成

「大気中に放出されるCO2を回収し、メタネーションの原料としてリサイクルする。カーボンニュートラル(CO2排出実質ゼロ)に向けた解決策として経済的にも合理性が高い」。大阪ガスの担当者はこう説明する。

都市ガスの原料である天然ガスの約9割はメタンで、天然ガスを合成メタンに置き換えることは可能だ。液化天然ガス(LNG)輸送船や貯蔵タンク、都市ガスのパイプラインなどのインフラ、家庭や飲食店のガスコンロといった機器をそのまま使用できるメリットがある。

政府が掲げる2050(令和32)年までのカーボンニュートラル実現に向けて、CO2をリサイクルしてガスやプラスチックなどを製造する技術は欠かせないものと評価されている。その中に含まれるメタネーションは、製造時にCO2を使うことで都市ガス使用時に発生するCO2が相殺されるとして、CO2排出量を実質ゼロとみなす。まだ実用化していないが、基礎的な技術は確立されている。

大阪ガスとオーストラリアのベンチャー企業が手がけるグリーン水素製造装置のイメージ

このためガス業界はメタネーションの開発を加速させている。東京ガスは3月、横浜市鶴見区に日立造船による小規模のメタネーション施設を稼働させた。製造能力は1時間に12・5立方メートルで、化石燃料由来の「グレー水素」とCO2を混ぜて合成メタンを製造。今年度中に水素を製造する水電解装置と太陽光パネルを導入し、外部から購入しているグレー水素を、太陽光発電の電気で作る「グリーン水素」に切り替える。

東京ガスは令和12年に販売量全体の1%を合成メタンに置き換える計画。同施設は実用化に向けた課題を洗い出す狙いがあり、CO2を顧客から引き取ることや、横浜市の下水処理場や清掃工場から引き受けることも検討している。

万博で実証

一方、大阪ガスは微生物を利用してメタンを合成する「バイオメタネーション」に注力する。技術開発は始まったばかりだが、既存の下水処理場を活用できるため導入の初期費用を抑えられる利点がある。

4~6年度に大阪市内のごみ焼却工場(舞洲(まいしま)工場)で、工場内で製造した再生可能エネルギー由来の水素と生ごみからのバイオガスでメタンを製造し、工場内のガス機器で利用する実証を行う。同市内のスーパー9店舗から出た食品廃棄物を使う予定で、1日当たり1トンの食品廃棄物から一般家庭約120世帯分の使用量に相当するメタンを合成。年間78トン相当のCO2削減効果が見込めるという。

大阪・関西万博の会場となる夢洲(ゆめしま)。工事が進み始めている=7月15日、大阪市此花区(産経新聞本社ヘリから)

「万博でメタネーションをアピールし、実用化に弾みを付けたい」と、大阪ガスの担当者は期待を込める。一連の実証を経て、舞洲に近接する夢洲(ゆめしま)で開かれる万博の会期中、実証設備を会場内に移設。会場内で製造した再エネ由来水素と、会場で出た生ごみ由来のバイオガスでメタンを製造し、現地の飲食店の厨房(ちゅうぼう)などで利用する。会場の空気から回収したCO2を原料にメタン製造量を増加させることも検討している。

32年の「合成メタン90%導入」の目標に向けては、産業技術総合研究所と共同でエネルギー効率を大幅に高めたメタネーション技術の開発を進める。

価格に課題

CO2を有効活用する市場は拡大が見込まれ、実用化に向けた競争は激化が予想される。

民間調査会社、富士経済の試算によると、関連の世界市場は2019年の4兆8569億円から、30年には17・2%増の5兆6928億円まで拡大。市場について「大幅なCO2削減が求められ、注目度が高まり開発が進む」としている。

一方、大規模なメタン合成に不可欠なグリーン水素のコストをめぐる課題もある。大阪ガスの担当者は「国内で再エネが安くなればいいが、現状では太陽光発電が大規模な海外の方が断然安い。海外でメタンを作ってLNGと同じように輸送船で日本に持ってくることも想定される」と説明。「今のまま日本で製造すれば都市ガスよりも高価になってしまうので、製造のエネルギー効率を上げる必要がある。再エネが安く、CO2もあるメタネーションの“適地”を探すことも重要だ」と話す。

国際大の橘川武郎副学長(エネルギー産業論)によると、合成メタンの製造コストはLNGの約8倍となっている。政府は脱炭素に向けて策定した「グリーン成長戦略」で、2050年までにメタネーションの高効率化などの革新的技術開発や、安価な海外のサプライチェーン(供給網)構築により、メタンの製造コストをLNGと同等にする方針を示している。

橘川氏は「政府は5月、脱炭素社会の実現に向けて今後10年で20兆円を投じる方針を表明した。洋上風力の開発は目玉の一つだが、メタネーションが対象となるかどうかがポイント。LNGとの価格差を補填(ほてん)する仕組みを導入すれば弾みがつくが、支援がなければ厳しい」と指摘している。

筆者:井上浩平(産経新聞経済部)

≪読み解きポイント≫

  • メタネーションで合成したメタンは、都市ガスとそのまま置き換え可能
  • 大阪ガスは実用化を想定し、万博会場で食品廃棄物由来のメタンを製造
  • 合成に不可欠な再生可能エネルギーのコストが課題で、政府の支援も必要

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