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(上)から続く
女性が活躍できる貧困のない社会の実現に向けて
「いいか、小さな業者さんが大口のスポット回収にぶつかり、設備力やノウハウが無いために困って立ち往生している時はいつでも助けてやらんとあかん。そして夜通しかけて集めたリサイクル資源は、わしらがまとめて一気に買いとってあげるんや。お互いが力を合わせて無駄なく合理的に回収できるように考えることや」
小口の資源を如何に効率よく集める仕組みを作るか、ここは徹底して父親から教え込まれた。古紙をはじめとした「Materialリサイクル」を軌道に乗せるには、大手企業や工場まで回収に行くのが手っ取り早いと私達はつい思う。
しかし中村さんの考え方は違う。
「競合他社が入り乱れる大きな会社ばかり狙っていると、いざ景気が変われば、海外移転や減産、ひどい場合は稼働停止になり、ピタッと回収できなくなることもあります。
そんな一本釣りのような不確かな回収方法に頼るのではなく、コツコツ毎日持ってきてくれる『おじさん、おばさんの零細商店』と、その先の顧客との関係強化を図りながら回収を維持していく方が確実なんです」
目指すのは、地元密着の地場産業。「地産地消」をモットーとする。
父親は、関西で零細の中小企業や廃品回収業者と数多く取引をし、業態を大きくした。
リーマンショックで古紙のスクラップ価格が急落したとき、同業他社は古紙の買い取りを拒んだが、父親は「今が仕入先を広げるチャンス」と考え、持ち込んで来てくれた業者を大切にし、無理をしてでも買い取りを止めることはしなかった。
その時父親から口酸っぱく言われたのは次の考え方だった。
「市況マーケットは上がったり下がったりするもの。上がればいつかは下がり、下がり続けれればいつかは上がる。下がった時に踏ん張らんで一体どうするんや!」
中村さんは、この父親の教えをここハノイで忠実に守って実行している。それは、中村さんのベトナム事業を支えているのは、「ジャンクバイヤー」と言われるゴミ分別で生計を立てる女性達だからである。
ベトナムには「仕事が無ければゴミでも拾え」と言う厳しい考え方がある。この場合、家族の為にゴミを拾うのは99%女性である。そして街に出てジャンクバイヤーとなり、辻々に置かれているゴミのバッカンから、ペットボトルのような資源ごみを抜き取り、売ってお金に換える。朝から晩まで働くジャンクバイヤーの数はハノイに1万人ほどいると言われている。
身分証明書ない、銀行口座ない、字が書けない。中村さんの会社に面接に来る女性達は、この3つの「ない」が揃っている。そんな彼女達に対して中村さんは全力で「廃品リサイクルの大切さ」を教える。
「ウチの制服を着た彼女達に仕事を指示した瞬間、彼女達の家族全員に対して私は責任を負うことになります。だから少しでも多くの仕事を渡したい。その為には正直に何でも報告をして欲しい、そう毎日伝えています」
中村さんはベトナム全土に散らばるショッピングモールやスーパーマーケット、そして大手小売りチェーン店のTOPから依頼を受けて、資源ゴミの分別からリサイクルまでのコンサルティング、そして実際の分別サポートを請け負っている。ゴミが日々大量に発生する業態からの引き合いが多く、どこも「ゴミ分別の効率化」に頭を痛めている。口で説明して直ぐに分別が出来る訳がなく、中村さんの会社で働くジャンクバイヤー上がりの女性スタッフ達を「分別サポート担当」として派遣するのである。
大きなショッピングセンターの全館のゴミ箱の分別を、しっかりと教育を施した女性スタッフに託すのだ。彼女達の一挙手一投足が、中村さんの会社の信用に直結する。全国のお店に派遣しているので、リアルタイムの監視など出来ない。黙って任せるしかない。後片付けをしっかりとやり、支給されたスマホで毎日慣れない業務報告をする女性達。中村さんは報告をしてこない女性スタッフには手厳しい。
「報告をしてくれないと、あなたの家族を守ることはできないんだよ!」
徹底的に指導をする。そんな様子を依頼主は遠目で見ながら、中村さんの会社の「本気度」を徐々に理解していくことになるのだ。
企業側が分別にこだわらないといけない背景には、2020年8月の環境保護法の改正で「分別」できなければ罰金を科す政令が交付されたことが影響している。また「自社リサイクルに取り組むこと、もし出来なければ環境保護基金に一定額預けること」と、かなり具体的に踏み込んだ改正内容になっている。これは、世界的な課題となっている海洋プラスチックゴミのベトナムの流出量が占める割合が毎年70万トン、全世界の6%を占め、中国、インドネシア、フィリピンに次ぐ量となっている現状から、強い姿勢を打ち出さなければならないベトナム政府の事情もある。日本での長い実績を持つ中村さんのノウハウに、助けを求める会社が徐々に増えている。中村さんにとって、派遣を依頼する女性スタッフ達へのケアには余念がない。大きく広く営業網を広げる為に必要な「重要基点」となるからだ。
「ベトナムでサービス業を黒字化するにはどうすればいいですか?」
よく聞かれる質問だが、答えは簡単だ。日本人が日本で行っている同じレベルのサービスを、ベトナム人スタッフができるように教えることができれば成功する。当たり前の事だが、この教育が一番難しい。
省人化が進む日本に比べ、ベトナムはまだ圧倒的に人海戦術で押し切ろうとする傾向が強い。日本には、ゴミ袋を放り込むだけで自動分別できる「ゴミ分別機械」がある。しかし高価過ぎてまだ現場で稼働させるには時間がかかる。導入時期を未来に見据えながら、当面は女性達に活躍してもらうしかないと考える。
中村さんの会社Visionに、「女性が活躍できる貧困のない社会を実現する」という目標がある。
「縁があってJUNKの制服を着て仕事をしてもらうスタッフ達には、皆豊かになれるチャンスを与えてあげたい。頑張ってくれたらお店を出して部下を雇っても良いんですよ、その時は全力で支援します。日本にある『街の板金屋さん』のままならパッとしませんが、全国展開の『カーコンビニ倶楽部』の看板を掲げるだけで安心感が増しますね。我々JUNKもああいうブランド力を持てるようになりたいんです。そうなるとウチで働く女性達はもっと楽に稼げるようになりますから」
風も集まれば嵐になる
中村さん曰く、今の「Materialリサイクル」事業で勝ち残るには、マインドシェアを取ることが何より先決だと言う。
そしてマインドシェアを取るには取扱量を増やすこと。もうここは日本で十分学習してきたことだ。「JUNKは今いくらで売買しているんだろう」、それが指標となりベトナムのスクラップ価格が確定する、そんな影響力を持てれば勝ったも同然だ。必然的にブランド力もついてくる。
「10年で20箇所の店を出します。また今は資金調達の為にIPO株式公開の準備もしています。我々の事業に興味を示し賛同してくれる企業さんも集まってくれています」
必ずベトナムの地で、集める仕組みではなく「集まる仕組み」を作る。
「日本のことわざで『塵も積もれば山となる』ってありますね。こちらベトナムでは、『風も集まれば嵐になる』と言うそうです。嵐、吹かせてやりたいですね。真面目に働いてくれる分別担当の女性スタッフがもし500人集まってくれたら、これは間違いなくベトナムで大型ハリケーンを巻き起こすことができますよ」
中村さんは日々企業TOPに営業を掛けている。また企業側から「分別のながれについて」意見を聞かれることも増えて来た。日本でたたき上げで培ってきたノウハウから聞くことができる具体的な「資源リサイクル案」はとても説得力がある。
しかしゴミの分別が進まないと、いつまでたってもリサイクルが成り立たない。中村さんは、ゴミ分別サポートの女性スタッフ派遣しながら、同時に派遣先の店内のバックヤードで働くお客様のスタッフ達にも徹底して分別のノウハウを教えている。そして、ショッピングモールの催し会場で、ベトナム市民に「分別の啓蒙活動」までやっている。
「私達日系会社がどこまで真剣にリサイクルに取り組んでいるか、理解してもらうためにやっているんです」
「教育、啓蒙」にまで踏み込んだ資源リサイクル業者は、中村さんの会社以外に皆無だ。それだけに会社が取り組まなければならない「分別リサイクル」を日系のJUNKに任せる企業は着実に増えてきている。
中村さんが構築する「Materialリサイクル」から産み出される経済性のある再生資源の原料を必要とする企業は多い。
総合商社の双日は、ベトナム最大手家庭紙および段ボール原紙製造会社「サイゴンペーパー」を2018年買収した。また、発電事業においてベトナムで地盤を築いている丸紅は、段ボール原紙製造・包装資材販売事業会社を100%出資で2019年バリアブンタウ省に設立した。
日本だけではない。中国最大の製紙会社「玖龍紙業(ナイン・ドラゴンズ・ペーパー)」も2017年、ベトナム工場の増産体制に梶を切る。世界の名だたる「製紙業プレイヤー達」が、虎視眈々と成長著しいベトナム市場を狙っている。
しかしこれら大手製紙会社の原材料である古紙のベトナム国内の回収率は依然低いまま。仕方なく海外からの輸入に頼らざるを得ないのが現状だ。急増するベトナム製紙業の安い原材料ニーズに備えていかなければならないことは、火を見るよりも明らかである。
分別を徹底し、ベトナムに資源リサイクルのムーブメントを起こす
日本で出来たことを、ベトナムで出来ないはずはない。ベトナム人ですら誰一人成し遂げたことのない未知の領域に、今中村さん率いるJUNK&Co Vietnam JSCが分け入ろうとしている。その動力源は自身の熱い想い。そして付いてきてくれるスタッフ達に対する幸せへの願い。
中村さんの挑戦はまだ緒に就いたばかりだ。しかしベトナムを席巻する「リサイクルの嵐」が吹き荒れる日は、そう遠い先ではない。
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