風力発電、進む「洋上シフト」 陸上は反対→撤回相次ぐ

風力発電の立地をめぐり進められる陸上から洋上へのシフト。地域住民との合意形成が各地で課題となっている。

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風力発電(風発)の立地をめぐって、陸上から洋上へのシフトが進んでいる。昨年末には秋田県で国内初の大規模洋上風力発電所が商業運転を開始。政府は再生可能エネルギー(再エネ)普及の「切り札」として洋上風力を推進する。背景には陸上風力が大規模化と東北地方や北海道への集中立地により、地域住民との合意形成が各地で課題となっている現状がある。

新潟でも「促進」

「促進区域への速やかな指定を国に要望してきた取り組みが評価された」

新潟県の花角英世知事は昨年10月、経済産業、国土交通両省が再エネ海域利用法に基づき同県村上、胎内両市沖を洋上風力開発の「促進区域」に指定した際、こうコメントした。

「漁業や地域と共生した洋上風力発電の導入が図られるよう取り組んでいく」

両省は昨年12月、この海域での事業者の公募を始めた。選ばれた事業者は海域内で最長30年間、発電事業を行うことができる。公募の締め切りは6月末で、来年3月に事業者が選定される見通しだ。

同じ日本海側の秋田県では、昨年12月と今年1月、丸紅や東北電力などが出資する「秋田洋上風力発電」が、能代市の能代港と秋田市の秋田港で洋上風力計33基の商業運転を開始。秋田ではさらに4海域が促進区域に指定され、うち2海域は令和8年の着工を見込む。残りも新潟同様、事業者の公募が行われている。

大規模化し集中

太陽光や風力などの再エネは、発生12年を迎えた平成23年の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の翌年、固定価格買い取り制度が始まり急拡大した。令和2年には、菅義偉前首相が2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言。政府は「再エネの主力電源化」を掲げた。

この流れの中で陸上風力は事業が大規模化。さらに風の適地などの理由から、東北の山間部や北海道の沿岸部など同一地域へ事業が集中している。

計画図を示し、風力発電ができれば渡り鳥などに被害が出ると指摘する市民団体=2022年11月2日、山型県鶴岡市(©産経新聞)

住民団体の全国組織「風力発電を地域から考える全国協議会」の佐々木邦夫共同代表(55)は「景観や自然破壊、希少な鳥への悪影響、騒音や低周波音による健康被害、土砂災害の危険性など、住民の不安や懸念がぬぐえない」と訴える。

新税で森林外へ

昨年6月には、東北6県のうち宮城、山形、青森の3知事が大規模風発計画に相次ぎ懸念を表明。宮城県川崎町の蔵王連峰での関西電力による計画には、村井嘉浩知事が住民の反対を受けて自身も反対を明言。翌月、白紙撤回された。

今年1月には、同県大崎市鳴子温泉での風発計画が住民や地元市長の反対を受け、事業者が環境影響評価(アセスメント)手続きの第3段階「準備書」をいったん取り下げた。

秋田、能代両港湾域の洋上風力発電事業で、風車を据え付ける巨大な自航式の作業台船が日本で初めて秋田港に入港し、作業に向けた壮行式典が、同港飯島埠頭で行われた。4本の脚柱を海底に立てて船体を岸壁の高さまで持ち上げたザラタン号 =2021年4月20日、秋田県秋田市の秋田港(©産経新聞)

村井知事は山間部での再エネ開発について、「先人が育ててきた木を切ることで、逆に二酸化炭素の吸収源が減っていく」とその矛盾点を指摘。県は森林を開発して再エネをつくる事業者から徴収する新税の導入を目指す。

太陽光と風力、バイオマス発電を対象に、営業利益の2~3割を課税額として設定する方針で、再エネ事業を森林以外へ誘導し、森林を大規模開発から守る狙いだ。導入されれば全国初となる。

沿岸部に風車群

国の政策も、陸上より風が安定して吹き、騒音や景観問題が起こりにくい洋上風力の促進へとシフト。洋上風力の発電能力を令和2(2020)年の約2万キロワットから、2040年までに最大4500万キロワットへと引き上げる目標を打ち出している。これは原発約45基分に当たり、廃炉決定分を除く国内の既存33基を優に上回る。

一方で、わが国の地形条件による課題もある。洋上風力は、風車の土台を海底に固定する「着床式」が主流。欧州などの場合、海が遠浅のため沿岸から風車までは十数キロ以上離れているが、わが国では水深が深いため、沿岸部の浅瀬に風車が立ち並ぶことになる。このため、景観への影響、騒音や低周波音による健康被害への懸念が出ている。

将来的には風車を海に浮かべる「浮体式」の導入が期待されるが、今後開発が始まる秋田、新潟の5つの促進区域は全て、着床式での整備を検討している。

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