地ビールで障害者就労 下町の空き家活用 夢詰める大阪の醸造所
大阪の古民家が、障害者を積極的に雇用するクラフトビール醸造所に生まれ変わった。
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地元で「がもよん」の愛称で親しまれる大阪市城東区蒲生4丁目エリアに、障害者たちがつくるクラフトビール醸造所がある。醸造所は空き家となっていた古民家を活用。地域で古民家再生を手がける一般社団法人「がもよんにぎわいプロジェクト」が、福祉のNPO法人と連携して取り組んでいる。周辺の飲食店などへの販売のほか、ビアレストランも併設しており、売り上げを伸ばし賃金アップを目指す。
空き家活用
大阪城の北東、下町風情が残る一角にある「GAMO4 BREWERY(がもよんブリュワリー)」。計約150平方メートルの敷地に建つ築100年超の5軒長屋が、地ビール醸造所とビアレストランへ生まれ変わった。
ビールの製造に必要な設備のほか300リットルタンクが3台あり、1カ月の熟成期間をへて味わえる。
運営するのは、同区で障害者の就労支援を手掛けるNPO法人「燦然会(さんぜんかい)」。同会の施設利用者が交代で通う。醸造所ではタンクや床の掃除、材料の投入などの仕込み作業のほか、ビールの瓶詰めやラベル貼りなどを行う。レストランでは掃除や料理の配膳、調理補助などの仕事もあり、適性に合わせて担当してもらうという。
醸造所で作業をしていた知的障害のある照屋嘉樹さん(45)は「中腰の作業や重い材料を運ぶつらさはあるけど、できたビールを熟成タンクに送り出すときがうれしい」と話す。
同会は醸造所を福祉事業所以外での就労形態となる「施設外就労」として始めた。上好(うえよし)功理事長によると、将来は、作業量に応じた工賃で就労する「就労継続支援B型事業所」、雇用契約を結び最低賃金以上の給料で就労する「就労継続支援A型事業所」と、国の就労支援サービスに位置づけられた事業所に衣替えし、さらには一般企業へ転身していきたい考えだ。
上好さんはこれまでの運営で「適切な支援をすればきっちりこなせる」と手応えを感じている。
賃金アップへ
障害者らが一般企業で働くハードルは高く、国の就労支援制度で、作業所などで働いている。厚労省が行った令和2年度の工賃(賃金)実績調査では、B型事業所の平均時給は222円にとどまる。
この状況を改善しようと思い立ったのが、がもよんにぎわいプロジェクトの和田欣也代表理事だ。平成20年から地域の空き家を飲食店として再生してきたが、障害者らの就労の場にも活用しようと考えた。がもよんを代表する名産品づくりを思いつき、その中でもブームになっていたクラフトビールに目を付けた。
「がもよんビールを地域の飲食店で出せれば」。クラフトビール醸造所は仕入れから販売まで工程や作業内容も幅広く、多様な人たちの得意分野を生かせる。同区の福祉関係者から燦然会を紹介され、同じ問題意識を持っていたことで意気投合。2年の準備期間をへて実現した。
頑張り見て
「堂々と誇りを持って働いてほしい」という思いから店舗や醸造所は、洗練されたイメージに仕上げた。
また醸造所内はガラス窓を通じて、道路からもレストラン側からも中が見えるようにした。「ビールを飲む客は、一生懸命つくってくれた人たちへの感謝も浮かぶ。一方、作業する障害者も、客がビールを楽しむ姿を見て笑顔になってくれたらいいよね」と和田さん。
上好さんは「就職しても仕事で失敗をすると自信をなくして辞めてしまう例も多い。社会の理解も進んでいるがまだまだ足りない。地域の人には障害者たちの頑張りを見てほしい」と力を込める。
がもよんにぎわいプロジェクトは、燦然会と建物の賃貸契約を結ぶが、それだけにとどまらず事業成功に向け協力することも特徴だ。和田さんがこれまで古民家を飲食店などに再生した経験を生かし、売り込みのアイデアを練る。
デビュー作のご当地銘柄は「がもう」をもじり「モーガスター」に決めた。ラベルのデザインは公募するといい、年内には販売予定だ。地域の飲食店に呼びかけ、地ビールをメニューに加えてもらった。
また、1タンク単位で、希望の味をつくるオリジナルビールの注文も受け付ける。地元の居酒屋チェーンなどに営業をかけている。このほか国内外で通信販売を行うための手続きも進めており「第2工場ができるくらい売れたらどうしよ」とおどける和田さん。ビールには夢と希望が詰まっている。
認められた商品価値
高齢や障害などで就業が難しい人たちが働くクラフトビールの醸造所が広がっている。
生活保護受給者も多い大阪市西成区内で介護医療事業を展開する「シクロ」は平成30年、同区にクラフトビール醸造所を立ち上げ、高齢者や障害者を雇用している。デビュー作の「西成ライオット(暴動)エール」はネーミングも話題に。その後も続々と新銘柄を発表し、これまでに延べ90種類以上を開発している。
また京都・西陣のNPO法人HEROES(現・社会福祉法人菊鉾会ヒーローズ)が29年に開設した「西陣麦酒醸造所」(京都市)では、発達障害や自閉症の人たちが働く。主力製品「柚子無碍(ゆうずうむげ)」は女性からの評判も高く、国産の麦芽やホップなど材料にこだわった限定ビールなども生産している。
こうしたビールは支援目的だけでなく、商品価値が認められて人気なのが特徴だ。
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■目標8「働きがいも 経済成長も」
若者や障害者、すべての女性と男性にとって、完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい仕事を実現し、同一労働同一賃金を達成する。
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