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「すべての人の移動を楽しくスマートにする」-。そんなミッションを掲げるベンチャー企業がある。電動車いすの開発・販売を手掛けるWHILL(ウィル、東京都品川区)だ。そのミッションの通り、下半身の障害によって自由な移動が難しい人だけでなく、足腰が弱った高齢者らが手軽に乗れる「近距離モビリティー(乗り物)」として認知されつつある。
販売しているのは3モデル。5センチの段差を乗り越えることができ、回転半径76センチという小回りも実現した「Model C2」、軽量化を図り折りたためるようにした「Model F」、そしてスクータータイプの「Model S」だ。いずれも直感的な操作で運転でき、移動手段としての実用性だけではなく、運転する楽しさも感じることができる。
フレームの色を好みで選択できるようにしたり、座ったときに車を運転するときと同じ姿勢になるように設計したりと、デザインも一般的な電動車いすとは一線を画す。日本事業を統括する池田朋宏執行役員は「日常になじむデザインにすることで、乗る人の心理的バリアを解消するようにした」という。
そうした商品性は販路にも表れている。自動車ディーラーが最大の販路になっており、免許を返納し、車を手放す高齢者に〝乗り換え〟を提案している。取り扱いディーラーは100社1200店舗にのぼる。
ソフトの開発力も強みになっている。その1つが自動運転機能だ。令和2年6月に導入された羽田空港では、保安検査場から搭乗口までを電動車いすに人を載せて自動で走行。搭乗口まで送り届けた後は無人運転で保安検査場まで戻ってくる。現在では成田空港、関西国際空港、カナダ・ウィニペグ空港の3カ所にも導入、病院でも活用が進む。
今後、本格的に展開しようとしているのが、法人向けの貸し出しサービスだ。ショッピングセンターなど大規模商業施設を運営する法人向けに点検や保険をセットにして定額で貸し出し、来場者が施設内を移動する際に利用できるようにする狙いだ。プロ野球日本ハムの新球場「エスコンフィールド北海道」を含む複合施設「北海道ボールパークFビレッジ」など、導入施設も増えている。
「100メートル先のコンビニに行くのを諦める」。車いす利用者のこの一言がWHILLの原点だ。悪路、段差といった物理的なハードルや、「車いすに乗っている人」として見られる心理的なバリア…。杉江理社長兼CEO(最高経営責任者)ら創業メンバーは車いす利用者が感じる負担を解消しようと、誰もが乗りたくなる革新的な一人乗りの乗り物(パーソナルモビリティー)を作ろうと開発をスタートした。
新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザと同じ5類に移行し、行楽地のにぎわいもコロナ禍前に戻ってきている。杉江氏は「徒歩をカバーする近距離移動サービスの必要性は今後一段と高まる」と指摘、掲げたミッションの実現に力を込める。
WHILL 日産自動車のデザイナーだった杉江理氏ら3人によって平成24年に創業。開発は日本で行い、製造は台湾、中国の企業に委託しており、20カ国・地域以上で電動車いすを販売している。日本のほか米国、カナダ、オランダ、中国に拠点を持っており、海外を含めた従業員数は約300人。
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