【佐渡生き物語】朱鷺(とき)色に魅せられて 国の特別記念物のトキ

フォトエッセイの第2回では、映像記者の大山文兄が第1回に続き、自然には日本では佐渡にしか見ることができない絶滅危惧種のトキの写真をお見せします。

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自然豊かな新潟県佐渡市で9月29日、29回目となるトキの自然放鳥が行われた。一度は日本国内で絶滅したトキだが、中国からトキをもらい受け、人工繁殖で繁殖させ、放鳥を続けて15年になる。

ハードとソフトで

放鳥の方法にもやり方がある。一つがハードリリースで、順化訓練を終えたトキを箱に入れて放鳥場所まで連れていき放す方式だ。もう一つがソフトリリース。エサの取り方や飛び方などを訓練してきた順化ケージを開け、トキが自然と飛び立つのを待つ。

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朝日を浴び、羽を広げたトキの美しさは格別だ(大山文兄撮影)※写真は放鳥した際のものではありません。

今回の放鳥はハードとソフトで行われた。9月29日には10羽が佐渡の南東側の赤玉集落でハードリリースで放された。この場所は、佐渡で最後にトキが生息していたというが、今はトキのすみかはない。放鳥は2回に分け、5箱ずつ並べ扉を開けると、それほど待たずにトキは飛び立っていった。

何度も取材しているが、撮影に集中するために、残念ながら感動といった感情は沸き起こらないが、環境に慣れてうまく定着してほしい、という思いでいっぱいになる。

トキがエサをついばんでいると、サギも仲間入りしてきた(大山文兄撮影)

今回はソフトリリースも行われた。佐渡トキ保護センターにある順化ケージでトキは前日からエサを与えられない。エサは開放口そばの池にあり、お腹をすかせてトキが外に出るのを促すが、慣れた場所から見知らぬ世界に出るのを躊躇するのか、なかなか出ていかない。今回も、10月6日午前6時にケージを開放して、放鳥予定の5羽のうち1羽がその日の夕方に外へ。残りの4羽は7日朝になり、2日がかりだった。

ソフトリリースの場合どうしても順化ケージ周辺の平野に定着しがちだ。このため、場所を移動し、生息域を分散化する目的でハードリリースが行われた。

美しい羽が見られるのはたった約3カ月

朱鷺色とも称される、トキの美しい羽を見ることができるのは9月後半から12月の約3カ月に限定されているのをご存じだろうか。トキは繁殖期(1月~6月)には首すじから黒い分泌物を出し、体に塗りつける。だから、6月から9月にかけて全身の羽根が抜け替わった繁殖期の前の約3カ月しか、鮮やかなトキ色を見ることができない。

水面にトキの姿が鏡のように映し出される(大山文兄撮影)

トキのご褒美

私は農業を手伝い、田んぼの畦の草刈も行っている。時々、田や畦にトキの抜け替わった羽根を見つけることがある。飛び上がるほど嬉しくなり、そのときはトキからのご褒美をもらった気持ちになる。

田んぼに落ちていたトキの羽根(大山文兄撮影)

伊勢神宮で20年ごとに行われる式年遷宮の際、ご神宝の須賀利御太刀(すがりのおんたち)の柄(え)の部分にも使われている。トキの羽根は日本の文化にも貢献してきた。

ただ、トキは「種の保存法」で保護されているため、落ちている羽根を拾うことはいいが、それを人にあげたり、売ったりすると「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」と厳しく罰せられる。

撮影の苦労は多いが、トキのあの美しい色は、いろいろな被写体を追いかけてきたカメラマンの私をいつも魅惑する。

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大山文兄(おおやま・ふみえ)産経新聞社写真報道局で新聞協会賞を2回受賞。新聞社時代に11年間にわたり、トキの野生復帰を取材。2020年に退社して佐渡島に移住、農業に従事しながら、トキをはじめとする動物の写真を撮り続けている。映像記者として佐渡の魅力を発信中。インスタグラムでフォローしてください

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