Japan 2 Earth

日本は塩分のとりすぎ?「食環境戦略イニシアチブ」減塩の取り組み

Children using salt packets and actively participating in the quiz-style seminar on salt reduction. (©JAPAN Forward by Mika Sugiura)

This post is also available in: English

人生100年時代を目指し、健康寿命を延ばすため、「健康で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」で、子どもを対象にした減塩セミナーが開かれた。

子どもたちに減塩を啓発

カレーライス、鶏のからあげ、ご飯―。

「この中で、一番塩分が多い食べ物はわかるかな?」

講師の武庫川女子大食物栄養科学部准教授、小林知未(ともみ)さんの問いかけに小学生らが頭をひねっていた。

大阪市中央区の会場で昨年11月に開かれた厚生労働省主催の「楽しく学ぼう!減塩ワークショップ」の1コマだ。「健康で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」実現の一環として、小学生を対象に行われた。同イニシアチブが子どもを対象にしたセミナーは初めてという。

塩分が1番多いのはカレーライス、次にからあげ、そしてご飯と続く。この問いには全員が正解の答えを出した。

クイズ形式の減塩セミナーに会場は盛り上がった(杉浦美香撮影)

続いて、「塩分がどれぐらい入っているか」を0.3gの塩入りの小袋で予想する問いでは、苦戦することに。カレーライスは3.7gのため12袋の袋が積み上がった。からあげ100gは4袋(1.3g)、ご飯はゼロ。ご飯に袋をおいた子どもは「コンビニエンスストアで買うおにぎりは塩がある」と悔しそうに答え、会場の笑いを誘った。

適量の塩分の難しさ

さらに、全員が頭をひねったのは、1日の目標の塩分量を超えないようにメニューを組み合わせる問いだった。「料理にどれぐらい塩分があるかを想像するのは難しい。みんなでその方法を考えていきたい」と小林准教授は話す。

説明する小林准教授(杉浦美香撮影)

世界的に誇れる長寿国の日本だが、塩分摂取では優等生とはいえない。日本人の食塩の摂取量は1日あたり約10g。世界保健機関(WHO)が推奨している1日の量(5g)の約2倍を摂取していることになる。塩分の過剰摂取は高血圧、心疾患、脳血管疾患などの大きな要因になっている。塩分摂取が多くなる理由は、外食やファーストフードに起因すると思われがちだが、実は家庭で摂取される割合が多いという。

日本における危険因子別死亡者数(食環境イニシアチブのHPから)

厚生労働省健康課栄養指導室の塩澤信良室長補佐は「食塩のとりすぎは日本の最大の栄養課題。子どもも例外ではない。子どもたちを啓発することで家庭への波及効果も期待される」とワークショップの目的を説明する。

厚生労働省・栄養指導室の塩澤信良室長補佐(杉浦美香撮影)

参加した子どもの母親の一人は「私自身も知らなかったことが多い。加工食品の表示でカロリーや食品添加物は気を付けていたが、塩分量に目を向けてこなかった。子どもと一緒にメニューを考えていきたい」と話していた。

子ども向け減塩資料

ワークショップを手伝った学生たち(杉浦美香撮影)

イニシアチブを科学する、国立健康栄養研究所

「健康で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」は、食塩の過剰摂取、若年女性のやせ、栄養格差といった栄養課題の解決に産業界、政府、アカデミアが一体となって取り組むため2022年3月に設立された。人生100年時代。健康寿命を延ばすことが求められており、日本の取り組みを世界に発信して、栄養課題の解決に寄与するという。

このイニシアチブを支える研究のハブになるのが、昨年3月に東京から大阪に移転した国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(国立健康栄養研究所)だ。日本の栄養研究のナショナルセンターである同研究所の瀧本秀美所長に、イニシアチブ実現に向けての産官学連携共同プロジェクトについて聞いた。

東京都新宿区から大阪府摂津市に移転した栄養研が入ったビル(杉浦美香撮影)

「研究機関が企業と協力、国の研究機関と一緒に食品の情報を集めることは初の試みになる」とその意義を説く。

参加企業は味の素、江崎グリコ、カゴメ、キッコーマン、日清食品ホールディングス、ニッスイ、明治。日本を代表する食品関連企業7社。目指しているのは、自然に続けられる健康でおいしい食生活の実現に向け、健康への意識が高い人だけではなく、すべての人が意識せず、自然に健康になれる食環境モデルの構築だ。

プロジェクトは、①データベース②フィードバック③社会実装④シミュレーションの4つのワーキンググループに分かれて研究を行う。

瀧本所長は「各企業で減塩などの商品を開発し、自社の商品の売れ行きなどを調査したりするが、限定されてしまう。一つの企業ではなく、広い視野で調査研究行うため、その知見を自社に持ち帰り、健康に寄与できるものを、より効果的に消費者に届けるにはどうしたらいいかに取り組むことができる」と話す。

誰もが無理なく、健康な食生活を送るために

例えば、現在の加工食品の栄養成分表示には、熱量やタンパク質、脂質、炭水化物、ナトリウム(食塩)の5項目は義務だが、それ以外は任意になっており、わからない。米国では製品名で栄養成分も検索可能だが、日本の食品標準成分表では検索できない。外食や加工品を食べる機会が増える中、栄養成分の可視化が求められる。

栄養研の瀧本所長(杉浦美香撮影)

「栄養成分情報がわかるようにデータベース化したい。また、料理のレシピが山のように出回り、カロリーと塩分は示されても意外に栄養成分は出ていない。食物繊維をしっかりとりたい時はどのレシピ、年代別で必要とされる栄養素を補うためにはどのメニューを作ればいいかなどがわかるように料理のデータベース化もしていきたい。店で手にとった弁当や総菜で、意識しなくても健康になるような社会を目指す」と瀧本所長が語る。

1人1人が食生活を変えるのは難しい、持続するのはさらに難しい。減塩、減糖に配慮された商品も近年たくさんあるが、おいしくなくては続かない。お金をかければ可能だが、経済格差が栄養格差を生むことになってはならない。イニシアチブに参画する企業は、昨年12月で30社を超えた。 消費者責任ではなく、「誰もが無理なく、健康な食生活」を産官学で実現するハードルは高いが真の意味の公衆衛生に挑む。

今年は栄養分野で大切な年だ。WHOの加盟国はナトリウムの摂取量を30%減らすという目標の最終年にあたる。また、今夏、パリでオリンピックが開催され、パリ栄養サミットも開かれる。2021年の東京栄養サミットで、日本は2030年までに栄養不良(飢餓、不足、過多)を終わらせるために、日本の成功モデルを示すと公約した。公約を果たすための時間はあまり残っていない。正念場に来ているといえる。

(味の素は、Japan 2 Earthのコンテンツ・パートナーです。)

This post is also available in: English

モバイルバージョンを終了