こども食堂を自動販売機で応援 姫路の高校生発案 地域振興にも
高校生にアイデアで、自動販売機の利益を「こども食堂」の支援に充てる取り組みが姫路市で続けられている。
This post is also available in: English
街角にある自動販売機の売り上げが、そのまま「こども食堂」の支援に充てられる-。そんな取り組みが兵庫県姫路市で続けられている。アイデアを生み出したのは、地元の高校生。これに協力する企業が名乗りを上げ、「企業版ふるさと納税」を活用した支援の仕組みが出来上がった。飲み物を1本買うと知らず知らずのうちにこども食堂を応援している-というカジュアルな社会貢献だ。
活動の励みに
さまざまな理由から食事を十分取れなかったり、一人で食事を取らざるをえなかったりする子供たちのために、無料や低額で食事を提供する「こども食堂」。子供の貧困対策や地域交流の促進などに大きな役割を果たしている。
姫路市の天理教飾東大教会で月1回程度、開かれている「野里ほっとこども食堂」。昨年9月、ふだん見慣れないメニューが加わった。「ホタテのバターしょうゆ焼き」。北海道猿払(さるふつ)村から約4キロの冷凍ホタテが届いたのだ。代表の紺谷清一郎さん(37)は「子供たちが喜んでくれると、私たちも活動の励みになる」と話した。
ホタテは、他の姫路市内の7施設にも提供された。「購入費用は、当社のスーパーマーケットに置いている自販機の売り上げがベースになっているんです」。県内にスーパーを14店舗展開する「銀ビルストアー」の大塚兼史社長(36)が説明する。
市内にある同社のスーパー「ボンマルシェ」2店舗に設置している自動販売機の売上金相当額を、企業版ふるさと納税の制度を利用して猿払村に寄付。同村は地域再生計画に基づき、寄付金で地元産ホタテを購入してこども食堂に無償提供する、という仕組みだ。企業版ふるさと納税による寄付のため、銀ビルストアーは、寄付額の最大9割が法人関係税額から軽減される。
同村も「水揚げ量日本一を誇る猿払のホタテを知ってもらういい機会」とメリットを感じている。
2台が稼働中
この自販機の生みの親は当時、市立飾磨(しかま)高生だった市川美保さん(19)。2年の時、情報探究の授業で国連の持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けたアイデアを全員が考え、市川さんは「貧困をなくそう」「すべての人に健康と福祉を」という目標を念頭に、自販機を利用したこども食堂への支援を思いついた。
まちづくり団体が主催するコンテストでこのアイデアが注目を集め、姫路青年会議所が「アイデアだけで終わらせたくない」と実現に向け動いた。これに銀ビルストアーや飲料メーカー「キリンビバレッジ」が協力企業に名乗りを上げ、「こども食堂支援機構」の秋山宏次郎代表理事(41)が企業版ふるさと納税と組み合わせる提案をするなど協議を重ね、構想を練り上げていった。
そして市川さんが3年になった令和3年9月、「じーはん募金」と名付けられた自販機が「ボンマルシェ」白浜、英賀保両店にお目見えした。
自販機2台で年間約100万円の売り上げが見込まれるというじーはん募金。大塚社長は「高校生の思いを応援できたことが何よりうれしい。さらに、取り組みがニュースとして取り上げられて企業のイメージアップにつながったこと、社内でもこども食堂に対する意識が芽生えたことも大きい」と取り組みの意義を強調する。
資金やスタッフ不足が課題
「じーはん募金」が支援の対象としている「こども食堂」。その第1号は、平成24年に東京都大田区で始まった取り組みとされる。認定NPO法人全国こども食堂支援センター「むすびえ」(東京)によると、令和4年で全国に7363カ所開設されているという。
こども食堂の取り組みは民間発の自主的・自発的な活動であるため、公的な制度が整っておらず、実施主体や規模、提供方法などの活動実態も多種多様。設置箇所数の調査は、同団体がこども食堂に関する全国の地域ネットワーク団体や自治体、社会福祉協議会などの協力を得て平成30年から実施している。
今回の調査では、この1年の増加数は1318。同団体では「新型コロナウイルス禍、さらに諸物価高騰の中にもかかわらず、これだけ増えているのは、子供を温かく見守りたい、つながり続けたいという思いの表れ」とみている。
一方、同団体が実施したこども食堂の現状に関する調査では、「運営資金の不足」や「運営スタッフの不足」などが困りごとの上位として挙がる。また、8割以上が物価上昇による影響を感じているが、開催回数や食事内容、料金などの変更を実施しているのは1割未満にとどまっており「物価上昇に悲鳴を上げながらも影響を参加者に転嫁せず、何とかやりくりしている」と評価。行政や民間の更なる支援が必要だとしている。
各自治体でも、こども食堂の設置や運営に対する補助制度を設けている。兵庫県姫路市の場合、昨年度までは1団体に対して年間125万円を上限としていたが、今年度は限度額を150万円までに増やすなど、支援を手厚くした。
筆者:小林宏之(産経新聞)
This post is also available in: English