「超侵略的」外来魚が大繁殖 環境DNA調査で判明 生態系破壊の危機迫る

2017年に初めて確認された、「超侵略的」な外来魚が驚異的な勢いで繁殖し、生息域を急拡大していることが、京都大などの環境DNA調査で判明した。

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日本の自然環境で2017年に初めて確認された、朝鮮半島原産の「超侵略的」な外来魚が驚異的な勢いで繁殖し、生息域を急拡大していることが、京都大などの環境DNA調査で判明した。強い肉食性で極めて獰猛(どうもう)なことから、この外来魚が生息する河川では既に、希少な在来種が絶滅の危機にひんするなど生態系の破壊が進行。研究チームは「事態は極めて深刻で、生息域を広げさせないよう一刻も早く対策を検討するべきだ」と警鐘を鳴らし、見つけた場合は連絡を呼びかける。

河川水中のDNAを分析

環境DNAとは、海洋や河川、空気、土壌など、自然環境に存在する微量なDNA(デオキシリボ核酸)のことだ。水中の場合、生息する生物の排泄(はいせつ)物や粘液などに由来し、海水や河川水を採取して、含まれる環境DNAを分析すれば、採取地点の周辺にどんな生物が生息しているかを知ることができる。近年は、一度の分析で多種の生物の存否が分かり、多いか少ないかも把握できる「環境DNA定量メタバーコーディング法」が開発され、分析が高度化している。

研究チームは、この最新技術を使って、宮崎県を流れる大淀川水系で、環境DNA調査を行った。特に注目した対象は、水系の上流域の支流で2017年に初めて確認された「コウライオヤニラミ」だ。朝鮮半島にしか生息しないはずのオヤニラミ属の淡水魚で、日本に生息する近縁種のオヤニラミが体長12センチ程度であるのに対し、30センチ程度にも成長。魚類や昆虫類、甲殻類などを好む強い肉食性で、生態系への影響を懸念したためだ。

2023年5月、大淀川水系の大淀川第1ダムから上流部の55地点で、表層水を1リットルずつ採取し、フィルターで濾過(ろか)して環境DNAを抽出した。これに、環境DNAの濃度を正確に調べるための基準となる「内部標準DNA」を人工合成して添加。分析しやすいようPCRという技術で増幅してから、DNAの遺伝子配列を分析し、各採取地点の周辺にどんな生物が生息しているかを調べた。

水系上流全体に蔓延状態

調査の結果、大淀川水系の上流部には、計29種の魚が生息していることが確認された。このうち、コウライオヤニラミのDNAは全55地点のうち71%に当たる39地点で検出された。大淀川の本流と、ほぼ全ての支流にわたっており、日本への侵入が初めて確認されてからわずか6年で、着実に分布を広げ、大淀川水系の上流部全体に蔓延状態となっていることが明らかになった。

続いて、チームは各地点において、それぞれの魚が多いか少ないかを、環境DNAの濃度に基づいて分析した。すると、コウライオヤニラミがよく繁殖している地点では、カマツカやヨシノボリ属、カワムツなど、小型の魚9種が少なくなっていた。コウライオヤニラミに捕食されたためとみられる。

実際、同チームが後日、コウライオヤニラミの胃の内容物を調べたところ、素早く泳ぐオイカワなどの魚類や、水生昆虫、エビ類が見つかった。これにより、コウライオヤニラミは、川底付近にすむ動きの鈍い魚だけでなく、遊泳力の高い魚も捕食していることも判明した。

希少なドジョウが危機に

希少な魚も、コウライオヤニラミの餌食となっている。調査を行った大淀川水系には、この区域のみに分布する固有種で、環境省のレッドリストで絶滅危惧ⅠB類に指定されているオオヨドシマドジョウが生息しているが、コウライオヤニラミの侵入後、大幅な減少が報告されている。

今回の調査でも、オオヨドシマドジョウの環境DNAは、55地点中6地点で検出されたが、いずれも非常に低濃度であることが判明。壊滅状態に近いとみられるという。6地点ともコウライオヤニラミの環境DNAが検出されており、外来魚の侵略の脅威にさらされていることは明らかだ。

朝鮮半島原産のコウライオヤニラミが、なぜ大淀川水系に侵入してきたのか。今回の調査を行った、京都大の辻冴月(さつき)助教(水域生態学)は、「ペットや販売用として飼育されていたものが、飼いきれなくなって放流されたのではないか」とみている。

だが、繁殖力が強く獰猛で魚体も大きいため、ひとたび日本の河川に侵入・定着すれば、在来種にとって非常に大きな脅威となる。現時点で、生息が確認されているのは大淀川水系だけだが、これ以上は拡散させずに封じ込めた上で影響をきちんと見極め、駆除や、場合よっては特定外来種の指定も考えねばならない。もちろん、興味本位で移動や放流を行うことは、厳に慎むべきだ。

辻助教は、「日本の淡水生態系に対するコウライオヤニラミの非常に高い侵略性が浮き彫りになった。極めて危険な状況だ。今後も調査を継続していくが、もし大淀川水系以外で新たに発見したら、知らせてもらいたい」と話している。

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