TBM、〝石〟から生まれたプラ・紙代替素材が浸透 環境に優しく企業・自治体1万超が採用
国内自給率が100%の石灰石を主原料とし、プラスチックや紙を代替できる新素材「LIMEX」を開発したスタートアップ、TBMが存在感を増している。
This post is also available in: English
国内自給率が100%の石灰石を主原料とし、プラスチックや紙を代替できる新素材「LIMEX(ライメックス)」を開発したスタートアップ(新興企業)、TBM(東京都千代田区)が存在感を増している。原材料を国内で調達できるだけでなく、プラスチックや紙を、ライメックスを使った製品で代替することで、環境負荷を大幅に低減させることもできるといい、採用を決めた企業や自治体は1万以上に達する。
温室効果ガスを大幅削減
ライメックスは、国内での埋蔵量が豊富で安価な石灰石に石油由来樹脂などを混ぜて作る。資源の大半を輸入に頼る日本にとってうってつけの素材といえる。本来、石灰石は他の原料と混ざりにくい性質を持つとされるが、TBMは研究を重ねて独自の配合技術や練り合わせ技術を編み出し、開発に成功した。
この新素材は、石油由来の汎用(はんよう)プラスチック素材に比べ、原料調達から処分までのライフサイクル全体で二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを50%以上削減できるという。また、通常、紙を1トン生産する場合、約100トンの水を必要とするが、ライメックスの製造工程では水をほとんど使わない。水使用量は紙との比較で97%削減できる計算で、水をはじいて破れにくいという特性も持つ。
ライメックスを使った製品は食器やレジ袋、名刺、冊子、クリアファイルなど多岐にわたる。「モスバーガー」を運営するモスフードサービスが店内のメニューを表示する電飾ポスターに採用したり、100円ショップのセリアやキャンドゥが販売する収納雑貨にも使われている。アパホテルが客室で使うごみ袋もライメックス製だ。東京都や神奈川県といった自治体にも活用は広がっている。
海外でも評価が高まりつつある。昨年、高級ブランドの仏LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン傘下の化粧品会社に化粧品容器の素材としてライメックスが使われるなど、採用された国は約10カ国に及ぶ。
コスト低減が課題
ライメックス製品の製造は、プラスチック代替用に粒状にしたものと、紙の代替用にシート状にしたものを、成形メーカーや印刷会社などの協力企業に出荷し製品化する。現在では、協力企業は約500社に上り、令和3年には年間2万3千トンのライメックスを製造できる量産工場を宮城県内で稼働させた。
TBMは平成23年に設立。設立前の20年に山崎敦義代表取締役CEO(最高経営責任者)が、台湾の企業が石灰石から作った「ストーンペーパー」という紙の代替製品に出合ったのがきっかけだ。その後、山崎氏はストーンペーパーの輸入販売事業を手掛けるようになった。環境意識が高まる日本での普及の可能性を感じ、紙に比べて重いといった欠点を克服すべく、台湾企業に品質改良を要求したが、受け入れてもらえなかったことから、自ら開発しようと立ち上げた。
同社には大手企業も関心を寄せており、大日本印刷やTOPPANホールディングス、伊藤忠商事、韓国財閥のSKグループなどが主要株主として名を連ねる。大日本印刷で技術研究部門を統括する坂田英人執行役員は「(環境意識の高い)顧客に提案できるよう、印刷物などの素材としてライメックスをラインアップしている」と普及に一役買う。
課題もある。ライメックスの価格をいかに下げるかだ。TBMによれば、汎用プラスチック素材と比べても価格競争力は遜色ない水準という。だが、優位性を確立するためには製品を普及させてさらなるコストダウンを図る必要があるという。TBMは今後、営業力の強化に向け、経験者採用や販売協力企業の開拓にも力を入れる。ラベル基材や建設資材などへの採用拡大にも注力する方針だ。山崎氏は「ライメックスの各種製品を普及させ、『サステナビリティー(持続可能性)革命』の実現に向け挑戦していく」と決意を新たにする。(佐藤克史)
This post is also available in: English