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【がんばろうVietnam!】「ごみを電気に」1兆円市場の東南アジアを拓く日立造船の技術力(下)

Weekly meeting between Hitachi Zosen and URENCO (August 24, 2022, Photo by Tsuneo Taguchi).

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(上)から続く

一番の理由は、ベトナムのゴミ処理全般に対する予算の低さが挙げられる。日本は行政機関が潤沢な税金を使い公共事業としてゴミ処理を行うが、ベトナムではまだこの体制が完全に築かれていない。低予算での運営の下、その「責任の所在」と「費用分担」が、ベトナムの天然資源環境省とハノイ市人民委員会、そしてその下部組織であるURENCOとの間で明確に定まっていないようだ。

しかしベトナム初の高性能プラントであるだけに、従来型の焼却炉よりコストがかかること、また稼働させなければならないプレッシャーもあり、我々には分からない運営上の難しさが垣間見えてくる。

産業廃棄物はお金と同じ、乱立する「産廃収集業者」

本プロジェクトが稼働し始めた2012年に比べて、大きく変わったのは産業廃棄物を収集する産廃業者の数だ。産廃業者は工場で生産廃棄物を引き取る際に工場側から「引き取り料」を受け取る。そして、最終処分場へ持って行き「処分料」を払う。その差額が利益となるが、果たして全ての産廃業者が最終処分場へ持ち込んでいるかどうかは定かではない。

「これからは工場から出た廃棄物が、正しく処分場へ持ち込まれているかどうか、工場側もWatchできる制度を作らないといけないと思います」

鈴木支店長が静かに語る。

最終処分場へ向かうURENCOのゴミ運搬車両=8月24日(田口庸生撮影)

本プロジェクトではURENCOが産業廃棄物を収集する役目を担うが、後発の産廃業者がかなり安い単価を提示し、引き取り料金のダンピング合戦が繰り広げられている。廃棄物焼却発電プラントの「燃料」である産業廃棄物を、URENCOが昔のように自在に集めることが難しくなっていることも、稼働の足を引っ張る要因になっていたのかもしれない。

「再開指示」が発令、やり切る日立造船のサポート

「ようやくハノイ市人民委員会から早急な再開指示が出ました。プラントのオーバーホール業者も入札で決まり、我々も再稼働のための技術サポートを入れて行きます。間違ったオーバーホールをされるといけませんので。そして再稼働費用ですがベトナム側が全て負担します。」

2017年10月のベトナム政府への引き渡しと同時に日立造船の仕事は完全に終わっている。

しかし、引き渡し後も不定期ではあるが日立造船本社からの技術者出張に乗じて、URENCO担当者とのQ&A対応を水面下で行っていた。もちろん再稼働が決まってから現在に至るまで、URENCOとの週一ミーティングは欠かせない。また、以前は大手工業団地へ赴き、日系企業を集めゴミ焼却発電プラントのセミナーも開催していた。その裏の目的は廃棄物回収業者として提携しているURENCOを日系会社に紹介するためだ。ベトナム側が独り立ちできるように、泥臭いサポートを続けながら再稼働に備えてきた。プラントの生みの親として、子供が一人歩きするまで寄り添う姿勢は崩さない。

プラント館内を日立造船ハノイの鈴木支店長より説明していただく=8月24日(田口庸生撮影)

日立造船が行うこれらの細やかなサポートに、ベトナム政府はどう感じるのだろう。

「成長エンジン」を海外に、東南アジアの安い予算でも対応できるプラントを

「アジアで多くのゴミ焼却プラントをやってきて思うのですが、経済発展を一番の国家課題に置いている国が大半ですから、どうしても空港や港湾・道路整備そして工業団地造成といったGDPアップに直結するインフラ事業に投資が集中するんです。ゴミ処理という外貨収入を直接産み出さない『下支え事業』には予算は低く、民間資金か外資の投資頼りになっているのが現状です」

人口の多いベトナムの都市から鈴木さん宛てに直接「ゴミ対策SOS」が多く寄せられているという。

廃棄物焼却発電プラントを熟知したベトナム企業など皆無なだけに、導入実績が豊富な日立造船に頼る想いは強い。しかしそう頻繁に日本の税金で行う実証実験を繰り返すことはできない。ベトナムのような経済優先国にプラントを導入する場合「役割分担」が不可欠で、プラント建設は「日本」、産廃の収集と焼却後に生まれる再利用物の販売は「ベトナム」、そして稼働後の運用は「日越ともに」という提携を踏まえて合弁会社を設立する必要がある。外資のライセンスが届かない業務は、ベトナム側に任せるしかないのだ。

日立造船がNEDOと手掛けた廃棄物焼却発電プラント=8月24日(田口庸生撮影)

「ベトナム企業との合弁はできたとしても、肝心のプラント建設が日本価格だとベトナムは手が出ません。今回のNEDOのような日本の公的資金や、CO2削減の取組に伴う二国間クレジット制度(JCM)を活用することで安く提供はできるのですが、JCMの継続には今後限界が出てくると見ています。直接我々がベトナムの各省や人民委員会から受注するケースも想定して準備をしています。ベトナム側の予算に応じて、当社が育てた中国企業の部品を使ったり、インドのパートナー会社と組みながらコストカットをする引きだしは既に用意はできています」

東南アジアの都市ゴミ処理潜在市場は、経済発展と人口増大に伴い1兆円と目される有望市場。日立造船の熱視線が今ヨーロッパと共にアジアにも向けられている。「成長エンジン」を海外に。これらニーズの高い国々を主戦場に見据え、且つ安さが売りの中国勢も視野に入れて戦わなければならない。

今回の取材を通して感じることは、「プラントを建設して終わりではない」ということ。経済発展重視でひた走るアジアでは特に「どれだけ深く根付かせるサポートを提供できるか」、この併走力が問われる。作って終わりの中国には真似のできない日立造船のプラントホスピタリティに、今世界が注目している。

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