【がんばろうVietnam!】「ごみを電気に」1兆円市場の東南アジアを拓く日立造船の技術力(上)

ベトナムで閉鎖された廃棄物発電施設を探る

This post is also available in: English

「はい、正式に調印しプラントをハノイ市に引き渡してから10日くらいで・・・停止しました」

まさかと思っていたが、日立造船ベトナムの鈴木支店長から聞いた話は、巷の噂が本当であることを裏付ける内容だった。

私がベトナムハノイに赴任した2011年から、「ハノイは今後ゴミ問題が深刻化する」と常にささやかれていた。経済成長著しいベトナムでも、特に大手企業の大工場が集積する北のハノイは、工場から吐き出される産業廃棄物の量が年を追うごとに増大している。

ハノイ市では、生活ごみおよび産業廃棄物が合計で一日当たり約7,000トン発生する。そのうち5,000トン近くのゴミはハノイ中心地から約30km北部にある「ナムソン最終処分場」の敷地内に毎日埋め立て処分されている。その埋立地の容量が逼迫しているというのが現状だ。

大雨が降ると地中のゴミから滲み出る生活汚水が強烈な臭気を放ち、その都度周辺住民のゴミ埋立反対運動が過激さを増す。ハノイのゴミ収集処理事業を、ハノイ市から一手に委託されているのが、国営企業の「HANOI URBAN ENVIRONMENT Co., Ltd.(以下、URENCO)」だが、そのURENCOのゴミ収集車両を処理場に進入させないようにバリケードを築き妨害する反対住民のニュースが、ハノイ市内に溢れる未処理のゴミ映像と共に何度もテレビで取り上げられている。

日本の「ベトナム初廃棄物発電施設事業 」が動き出す

この窮地を打開する為に日本政府が立ち上がる。

日本が長らく培ってきた「消費効率の優れた産業廃棄物発電技術」を世界に広める実証事業の一環で、日本の「国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」 がベトナムの要請を受け、2012年ベトナム初の「廃棄物焼却発電プラント(Waste-to-Energy Plant) 」を建設する覚書を取り交わすことになった。

日立造船がNEDOと手掛けた廃棄物焼却発電プラント=8月24日(田口庸生撮影)

それまでベトナムで稼働していた焼却炉は、日本の基準では稼働させることが難しい、環境対策が不十分な焼却炉が主流だった。しかし今回日本が提供する廃棄物焼却発電施設は、ベトナム国内で最も厳しいとされる医療系廃棄物の規制値を大きく下回るどころか、更に厳しい日本の規制値をもクリアすることを目指す、まさに最新鋭プラントだ。

日本のゴミ焼却発電技術の高さは、欧州・中東・アフリカで既にシェアの過半を占めることからも容易に伺い知れる。世界の「ゴミ埋め立て比率」を見ても、日米欧の先進国38カ国が加盟するOECD平均で40%だが、日本はたったの1%。日本はほぼ全てのゴミを焼却し、再利用できているクリーンな国なのである。エネルギー不足に加え環境汚染問題が深刻なベトナムだけに、日本の技術への期待は大きく、かなりの注目を集めていた。

最終処分場へ向かうURENCOのゴミ運搬車両=8月24日(田口庸生撮影)

このプラント建設にあたりNEDOの公募で採択されたのが日立造船(株)である。

昭和40年に日本初の発電設備付都市ごみ焼却施設を納入して以来、日立造船はアジア(中国・韓国・台湾)での発電設備付きゴミ焼却炉や、マレーシア及びインドネシアでも同様NEDO公募による廃棄物発電の採択を勝ち取るなど、国内外で1,000件以上の導入実績を積み上げている。日本のゴミ焼却発電のリーディングカンパニーとしての高い技術力とサポート力の裏付けがあったからこその結果である。

なぜ稼働していないのか

鳴り物入りで導入された廃棄物焼却発電プラントの実証実験も終わり、引き渡しが完全に終わったのが2017年10月。総事業費の負担割合は日本が80%、ベトナムが20%。日本側負担の80%はベトナムへの円借款ではなく「無償提供」になる。そして引き渡し後の運営はベトナム側が行うことと最初から決められていた。

日立造船がNEDOと手掛けた廃棄物焼却発電プラント=8月24日(田口庸生撮影)

最初の特殊技術を要するプラントの「先鞭」をつけることで、その後の追加導入を促すのが日本側(NEDO)の目的であり、生きた技術協力の成功例になるはずであった。それが今日に至るまで4年9ヶ月、動いていないのである。

プラントのオペレーション指導は、日立造船本体から技術者を派遣し、長い時間をかけてレクチャーを繰り返してきた。ベトナム側の優秀な人材確保のために、リクルートにも協力した。やれることは全て手を尽くしたが、問題はオペレーションではない。

動かせない問題は、ベトナム側にある。

(下)では、施設停止の理由や、再稼働に向けた取り組み、そして日立造船の戦略について取り上げたいと思う。

This post is also available in: English