CO2を資源として活用 脱炭素の鍵を握る国内初の「カーボンリサイクル」研究拠点が完成

二酸化炭素を有効活用する「カーボンリサイクル」。産学官連携の取り組みに迫る。

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2050(令和32)年の温室効果ガス排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)に向けて、二酸化炭素(CO2)を有効活用する「カーボンリサイクル」が脚光を浴びている。技術革新が進んでも一定程度の排出量が避けられないCO2を資源として、化学製品や燃料などをつくる仕組みが確立できれば一層のCO2削減につながり、カーボンニュートラルの目標達成に大きく近づくためだ。9月中旬には国内初となる産学官連携の大規模研究拠点が完成。製造コストなどまだ課題はあるが日本が競争力を持つ分野も多く、関係者の取り組みに注目が集まる。

「CO2から価値を生み出さないといけない。関係者の連携は不可欠だ」「(CO2由来の)商品が市場で受け入れられるようにしないといけない」-。

9月26日に経済産業省などが主催し、オンライン形式で開かれたカーボンリサイクル産学官国際会議。

4回目となる今回の会議には、計23カ国の政府や国際機関から担当者や研究者約1200人が参加した。

約4時間の会議では、カーボンリサイクルで生み出された製品を広く流通させる方策などについて、活発な議論や意見交換が行われた。

政府は50年のカーボンニュートラル実現に向けて、まずは太陽光や風力など再生可能エネルギーの普及促進、原発の有効活用などを進め、CO2の排出量を削減する考えだ。それでも鉄鋼や化学などの分野は工場から一定量のCO2が排出されるのは避けられない。

酢酸を活用し、CO2から化学製品の原料や燃料を作る研究を説明する広島大の研究者=9月14日、広島県大崎上島町(永田岳彦撮影)

カーボンニュートラルの実現にはCO2の排出量そのものを減らすと同時に、その上で排出が避けられないCO2をどう減らすかがが鍵となる。

CO2を資源として有効活用するカーボンリサイクルは有効な解決策の1つとして期待される。経産省は新技術の研究・開発で産学官連携を予算面などで後押しするとともに、米国など同様の研究を進めている各国との連携も積極的に進める考えだ。

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瀬戸内海のほぼ中央に位置する広島県大崎上島町にある中国電力大崎発電所。同発電所内の約1万4300平方メートルの敷地に、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がこのほど国内初となる産学官連携の大規模研究拠点を完成させた。

次世代航空燃料「SAF」の原料となる藻類の効率的な生産に関する研究を説明する日本微細藻類技術協会(IMAT)の研究員=9月14日、広島県大崎上島町(永田岳彦撮影)

研究拠点ではCO2を含むコンクリートや次世代航空燃料「SAF」の原料となる藻類の効率的な生産など基礎研究から実証研究まで10分野のテーマについて大学や企業が集中的に研究を行う。CO2を活用して、石油由来の燃料や化学製品に置き換えられれば、その分のCO2の排出量削減につながることも期待される。

9月14日に関係者が集まり行われた開所式で経産省の里見隆治政務官は「(カーボンリサイクルは)カーボンニュートラルのキーテクノロジーだ。1日も早い社会実装に向けて、(研究拠点を)大いに活用してほしい」と強調した。

経産省は、カーボンリサイクルの拡大に向けた技術ロードマップで、SAFや化学製品の一部については30年ごろからの普及を目指すとしている。普及が進めば、40年ごろからはより幅広い製品で普及を拡大させる見通しを立てる。

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カーボンリサイクルで生み出される製品にはSAFの他に、CO2を吸収するコンクリートや健康食品などに活用される成分、ペットボトルなど多岐に渡るものが想定されている。ただ、いずれの製品の場合でも共通する課題がコストの削減だ。

SAFの場合、現状では石油由来のジェット燃料をつくるよりも10倍以上のコストがかかるとされる。

SAFの原料となる藻類の研究を行う日本微細藻類技術協会の研究員は「いかにコストを下げられるかが課題」と強調。このため、研究拠点内の施設では光の強さや水温をさまざまな設定にして、より効果的な藻の生産と安価なSAF製造を目指している。

CO2を含ませたコンクリートの実証研究について説明する中国電力の担当者=9月14日、広島県大崎上島町(永田岳彦撮影)

コンクリートの場合、道路に使用するブロックなどへの応用は比較的容易とされる。ただ、SAFと同様にコストは高い。共同研究に参画する中国電力の担当者は「通常のコンクリートより3~5倍(コストが)かかる」と明かす。

加えて、CO2を含むコンクリートはアルカリ性の通常のコンクリートよりも酸性に近くなるため、高層ビルや橋など使われる鉄筋が腐食しやすくなるという技術面の課題も浮かぶ。腐食防止対策を施せばさらにコストがかかる。早期実用化に向けて解決すべき大きな課題となっている。

カーボンリサイクルの関連技術では、CO2の分離・回収のように、日本の企業や大学の競争力が現状では国際的に優位性があるとされる分野も多い。

ただ、欧米諸国でも国家レベルの研究開発プロジェクトなどが活発になっており、新技術を巡る競争は激しくなっている。

カーボンリサイクルで日本が世界をリードし、具体的な成果を上げるには、さまざまな政策対応も欠かせない。経産省にはNEDOの大規模研究拠点や脱炭素化に取り組む企業を支援する総額2兆円の基金の有効活用、各国との共同研究などをうまく組み合わせることが求められる。

筆者:永田岳彦(産経新聞経済部)

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