This post is also available in: English
ロシアによるウクライナ侵攻を機に食料安全保障の強化が課題となる中、食用コオロギの生産を拡大する動きが広がってきた。栄養価の高いコオロギは肉の代替タンパク源として注目され、本格的な普及に向けて7月には生産のガイドラインもまとまった。食料不足を解決する切り札としてだけでなく、手軽に栄養を取得できる食品として宇宙食への利用も期待されるなど昆虫食市場拡大の機運が高まる。
豊富なタンパク質も…安全性など課題
コオロギは雑食で一年中飼育ができ、牛や豚などの家畜よりも少ないエサや水で豊富なタンパク質を作れる。エサは食品廃棄物などでも賄え、食品ロスや環境負荷の低減に貢献できる持続可能な食品とあって、2013年には国連食糧農業機関(FAO)が食料危機の解決に寄与するとして「昆虫食」を推奨した。
一方で、飼育や衛生管理など食用コオロギの生産・利用に関する公的な指針や基準が未整備で、生産過程が不明な海外産が国内で流通するなど安全性や信頼性の確保が課題だった。
その課題解決に向け、今年7月に研究機関や企業でつくる「昆虫ビジネス研究開発プラットフォーム(iBPF)」がガイドラインを策定。入手経路を明確にしたコオロギの選定や共食い防止用のシェルターの設置といった生産面、病原菌抑制の処理を求める衛生面などの指針を盛り込んだ。
「コオロギせんべい」がヒット
このルール整備も追い風に、昆虫食市場は急拡大が見込まれる。日本能率協会総合研究所は、昆虫食の世界市場は25年度に1千億円と、19年度の約14倍の規模に達すると予測する。
実際、粉末状のコオロギを練り込み食べやすく加工された昆虫食が流通し、「無印良品」を手掛ける良品計画が販売した「コオロギせんべい」が、オンラインストアで一時品切れになるなど、ヒット商品も生まれている。同社にコオロギ粉末を供給する徳島大学発ベンチャー、グリラスの売り上げは「毎年約3倍で拡大」(担当者)しており、来年度には粉末の生産能力を現在の約6倍の60トンに拡大する計画だ。
昨年には自動車部品メーカーのファインシンター(愛知県春日井市)が、部品生産で培ってきた粉末加工技術を生かし、コオロギ粉末の製造・販売事業を開始。大手機械や化学メーカーがベンチャー企業と提携し昆虫食ビジネスに進出するなど異業種からの参入も増えている。
筆者:西村利也(産経新聞)
This post is also available in: English