絶滅危惧種のトウキョウサンショウウオ 保全活動続くあきる野市

トウキョウサンショウウオ保全の取り組みが実を結ぶ東京都あきるの市

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真っ黒な飛び出た目玉に愛嬌(あいきょう)を感じるその生き物は、名前に「トウキョウ」の地名が付いた日本固有の小型サンショウウオの一種だ。いまから約90年前、東京都あきる野市(旧多西村)で見つかり、その地にちなんで「トウキョウサンショウウオ」と命名された。ただ、この40年ほどで個体数は激減し、現在は絶滅危惧種となっている。ゆかりの地である同市では、市を挙げて種の保全に努めている。

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都心から約50キロ、電車で1時間余りの場所にある同市。市中には清流、秋川が走り、四方を山地や丘陵地に囲まれ、平地に田畑が広がる里山の風景を残す。

そんな自然豊かな土地でひっそり生息するトウキョウサンショウウオは、体長8~13センチほどで、体色は黄色がかった薄茶色や焦げ茶色、青紫色に輝く黒色など、個体によってさまざまだ。西多摩地域をはじめ神奈川県の三浦半島など、群馬県を除く関東地方1都5県の標高300メートル程度までの丘陵地帯に分布する。

1年のほとんどを枯れ葉や倒木の下の湿った地中で過ごす。繁殖期の3~4月の約2カ月間は、湧き水がしみ出る里山の池や水田などの人里近くの水辺に現れ、手のひらに載るぐらいの大きさでクロワッサン型をした卵嚢(のう)を産み付ける。

水中に産み付けられたトウキョウサンショウウオの卵嚢(あきる野市提供)

昭和6年に、同市内で採取した個体の標本を詳しく調べた動物学者が、歯形や尾の形状といったわずかな差異を発見し、新種のサンショウウオとして認められた。それまでは、分類上は西日本を中心に生息するカスミサンショウウオの亜種とされ、地元では魚類のカジカに顔つきが似ていたことから「ヤマカジ」の名で呼ばれていた。

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しかし、昭和後半の宅地開発などによって里山が姿を消すと、その数を急激に減らした。平成18年以降は、環境省のレッドリストで「絶滅の危険が増大している種」として絶滅危惧Ⅱ類に指定されている。

市は平成20年代からトウキョウサンショウウオを含む希少種の保全に取り組んできた。31年には、市独自で策定した「あきる野市版レッドリスト」(両生類)で「近い将来に、野生での絶滅のおそれが高いもの」として、環境省が定めたランクよりも1段階上の絶滅危惧ⅠB類に指定した。

市は、環境保全の知識や経験を有する専門職員「森林レンジャー」を中心に、産卵場の整備や天敵となるアライグマなどの外来種の駆除などを継続してきた。

「大都会の近くでサンショウウオを見ることができるのは魅力的だ」。そう話すのは、平成22年に森林レンジャーが発足して以来、現地調査を続けてきたスペイン出身のパブロ・アパリシオさん(42)。

トウキョウサンショウウオの産卵場を整備するパブロ・アパリシオさん(あきる野市提供)

市レッドリストの選定にも携わるアパリシオさんは、「トウキョウサンショウウオの場合、一度減ってしまうと元の数まで増やすことが難しいため、人間が積極的に保全する必要がある」と語る。また、就農人口の減少による荒廃した田畑の増加や木材用の針葉樹ばかりの山林など、複合的な自然の乱れが環境の変化に敏感なトウキョウサンショウウオの減少に大きく影響していると指摘する。

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一方で、市の保全活動に関わる「トウキョウサンショウウオ研究会」の調査では、平成10年からの20年間で、市内の産卵場で確認された卵嚢の数は約35%増えた。多摩地区では唯一、回復が見られ、保全の取り組みは実を結んでいる。

アパリシオさんは「自然を保全するということは、自然に手を加えないということではなく、人間が適切に手入れすることだ」と強調する。「トウキョウサンショウウオの数を増やすには、河川や森林、里山などの周囲の自然環境が健全であることが必須。一歩ずつでも、本来の自然の姿に戻していければ」と話している。

筆者:末崎慎太郎(産経新聞)

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