絶滅危惧種のコククジラを骨格標本に 東京海洋大の研究者ら中高生指導

絶滅危惧種「コククジラ」の骨が掘り出された。科学学習の一環で中高生が立ち会った。

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1月下旬、房総半島にある海岸の砂浜からクジラの骨が掘り出された。「コククジラ」と呼ばれる希少種で、平成28年に浜に打ち上げられ、骨格標本とするために埋められていた。砂から姿を現したのは、体長約9メートルの巨大な骨。東京海洋大(東京都港区)の研究者らが中心となり、都内や近県の中高生も立ち会って科学学習の一環として行われた。

肋骨(ろっこつ)や頭骨など部位ごとに掘り出された骨は、次々と砂浜のシートの上に並べられていった。参加した中学2年の萩原一颯(いぶき)さん(14)は「肋骨は子供くらいの大きさだった。日常生活でクジラに触れる機会なんてないので、スケールに圧倒された」と話す。

作業を指揮した東京海洋大の中村玄(げん)助教によると、コククジラは北太平洋の沿岸域に生息し、カリフォルニア系とアジア系の遺伝的交わりがない2系統に分かれる。日本周辺にいるアジア系は推計で120頭程度しかおらず、絶滅が危惧されているという。

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世界には約90種類のクジラがいるとみられるが、新種が見つかったり、別の種だと考えられていたものが統合されたりと、その数は毎年のように増減して定まらない。謎の多い哺乳類だ。

中村さんは「骨格の比較はクジラを分類する上で非常に重要。生態や進化の過程を調べるのにも欠かせないが、大きさから十分な保管スペースもなく、骨格標本をつくるためには数百万~1千万円と高額な費用がかかるので標本数は限られている」と説明する。

国内にあるコククジラの骨格標本は10体に満たず、その少なさが生態解明を阻んでいるのが実情だ。

海岸に打ち上げられたコククジラ=平成28年(東京海洋大鯨類学研究室提供)

日本には年間300頭以上のクジラやイルカが漂着するが、多くは埋設や焼却による処分となり、骨格標本にされるケースはまれだ。1月には、大阪市の淀川河口付近でマッコウクジラが発見され、交流サイト(SNS)上で「淀ちゃん」と名付けられた。その後、死亡が確認されたが、骨格標本としても引き取り手がなかったため、重りを付けて海中に沈められた。

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今回の取り組みは、3D(3次元)技術者の育成などを行う一般社団法人「日本3D教育協会」が一昨年に始めた「海洋研究3Dスーパーサイエンスプロジェクト」の一環だ。日本財団の支援を受け、3D技術を活用した海洋生物の研究を通じて人材育成を目指す。

掘り出された骨は、その場で光学スキャナーによって3Dデータとして保存された。従来のノギスなどを使った手作業の計測でデータ化できる部位は多くても数百カ所にとどまるが、光学スキャナーを使えば0・1ミリ単位の高精度で形状を把握できる。同協会の吉本大輝代表は「圧倒的にデータ量が多い」と語る。

コンピューター上で3Dデータを利用することもでき、保管スペースの課題もクリアできる。吉本さんは「これをきっかけに子供たちが3D技術や海洋研究に関心を持って、次世代の人材になってくれればうれしい」と話した。

掘り出されたコククジラの骨は貴重な標本として、東京海洋大に保管される。

筆者:玉崎栄次(産経新聞)

2023年2月11日付産経新聞【いきもの語り】を転載しています

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