【佐渡生き物語】秋は最高の朱鷺日和(ときびより)

フォトエッセイの3回目では、映像記者の大山文兄が、空気の澄んだ秋だからこそ楽しめる国の特別天然記念物、トキと自然の妙を写真で、紹介します。

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猛暑と雨不足で苦しめられた日本海に浮かぶ新潟・佐渡島も、秋の季節を迎えている。芸術の秋というが、空気が澄んだ秋は、トキの羽が最も美しい季節といえる。

美しい羽が見られる季節

秋はカラフルで豪奢だ。日の光を浴びてまぶしい柿、野山を錦繍のように染める紅葉、自然の実りの栗と色彩豊かに島を彩り、撮影のベストシーズンだ。今年の猛暑は、身体的につらいだけではなく、暑さで陽炎が昇り、良い写真を撮影することが難しかった。今は朝晩も涼しくなり、忍耐強く、トキの最高の一瞬を切りとるために待機するカメラマンの私にとってありがたい季節の到来だ。

秋に青くなった田で羽を広げるトキ(大山文兄撮影)

身を守るための灰色

トキの名をとって朱鷺色というが、トキの羽の大部分は白色で、風切り羽や尾がオレンジ味を帯びたピンク、いわゆる朱鷺色だ。そして、この美しい色を見られるのは、1年のうちの約3カ月にすぎない。

水浴びをして、自身の黒い粉を身体に擦り付けているトキ。貴重な瞬間に立ち会えた(大山文兄撮影)

2月ごろから始まる繁殖期の前から、トキの首のあたりの皮膚が黒く粉状に落ち、それを水浴びの後に身体にこすりつけて羽を灰色にしてしまう。理由は、生殖可能になったということを示すとともに、巣で卵を抱く際の保護色にするためではないかと考えられている。面白いのは、こうした習性は、鳥類の中でもトキだけという。

外来種も里山の風景に

美しいトキを彩ってくれるのが佐渡の自然だ。稲刈りが終わった田は再び根元から芽吹き、初夏に戻ったような新緑を見せてくれる。ふわふわとしたソバの花が里山を白く彩る。

セイタカアワダチソウの群生地にエサをついばむトキ。里山の風景になっている(大山文兄撮影)

外来種ではあるが、今や佐渡の里山の光景の一つとして定着しているのが、黄色が鮮やかなセイタカアワダチソウだ。

crested ibis
ふわふわとした白いソバの花とトキ(大山文兄撮影)

この植物は北アメリカ原産の帰化植物で、キク科アキノキリンソウ属。大型の多年草で花粉症の原因になると過去、忌み嫌われた。しかし、これは誤解で、花粉症は同じキク科のブタクサが要因という。ただ、すさまじい繁殖力で、駆除しても駆除しても生えてくる。セイタカアワダチソウはライバルとなるススキなどの在来種の生長を阻害するために化学物質を放出する。このため、在来種を駆逐すると思われたが、化学物質が土にある程度の濃度で蓄積すると自家中毒を起こしてしまい、心配されていた在来種を駆逐するまでにはいたらず、共存して日本でしっかり根づいてしまった。鮮やかな黄色の花とトキのコントラストは美しいが、複雑な里山の植物事情を表す光景といえる。

島の色鮮やかな秋の季節は短い。冬の足音はもうそこまできている。

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大山文兄(おおやま・ふみえ)産経新聞社写真報道局で新聞協会賞を2回受賞。新聞社時代に11年間にわたり、トキの野生復帰を取材。2020年に退社して佐渡島に移住、農業に従事しながら、トキをはじめとする動物の写真を撮り続けている。映像記者として佐渡の魅力を発信中。インスタグラムでフォローしてください

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