歌手の相川七瀬さん、伝統の赤米神事「残したい」 泥まみれで継承に奔走

国選択無形民俗文化財に指定されている対馬の赤米神事。後継者不足が深刻化するなか、伝統文化の継承支援の一翼を担う。

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長崎県の対馬など国内3地域のみに伝わる神事に欠かせない古代米の「赤米(あかごめ)」。生産者の後継者不足が深刻化し、関係者は危機感を募らせている。こうした中、「夢見る少女じゃいられない」などのヒット曲で知られる歌手の相川七瀬さん(48)が「次代への力になりたい」と、約10年にわたって地元住民らと交流。伝統文化の継承支援の一翼を担っている。

長崎県の対馬など3地域で受け継がれている赤米

国選択無形民俗文化財に指定されている対馬の赤米神事は「頭(とう)仲間」と呼ばれる地元住民によって受け継がれ、千年以上の歴史があるとされる。だが、頭仲間は高齢化などを背景に年々減少。平成19年以降はたった一人の男性が赤米を育て、神事を継承してきた。しかし、この男性も病気療養中で存続が危ぶまれている。

赤米神事が残るのは、対馬の他には、岡山県総社市と鹿児島県南種子町の3地域のみで、いずれも後継者問題などが共通の課題だ。

相川さんが赤米と出合ったのは12年前。ライブで訪れた対馬で偶然、ゆらゆらと揺れる赤い稲穂が実る「神田」の美しく、珍しい光景に魅了された。頭仲間の男性から窮状を聞き「自分に何かできることがあれば」と活動を始めたという。

それぞれの地域に直接足を運び、現状を学んだ相川さん。「赤米文化を残したい」との思いを伝えたところ、地元の「親善大使」を依頼され就任。平成26年には3地域の交流協定が締結され、本格的な連携が始まった。

岡山県総社市で田植えに参加する相川七瀬さん=2022年6月(相川さん提供)

以来、赤米文化の未来への継承を議論する「赤米サミット」の開催や地元児童の相互訪問が実施されるようになった。岡山県総社市では赤米支援のチャリティー音楽イベント「赤米フェスタ」も開かれるなど、赤米文化を多くの人に知ってもらい、保護に関する意識が高まりつつある。

ただ、相川さんは、継承が一筋縄ではいかないこと、そして外部から携わることの難しさも分かっていた。ゆえに令和2年に国学院大に入学し神道を学ぶ。

そして地元に受け入れてもらえるよう、スケジュールの合間を縫って、各地域で行われる田植えや稲刈りに参加。泥まみれになりながらも、子供たちや地元住民らと汗を流す。

対馬での田植えに参加する相川七瀬さん=2012年(相川さん提供)

限られた地域にのみ伝わる赤米文化について鹿児島純心大の小島摩文(まぶみ)教授(民俗学)は「吉備の国の中心地だった総社やかつて島司が置かれた対馬や種子島は朝廷にとっても重要な場所。こうした地域で赤米が神事に用いられ、現在も継承されているのは奇跡的」と強調。「今後も神事とともに残していくことは非常に価値がある」と活動を評価する。

地元の子供たちが地域に誇りを持ち、将来的に神事や赤米栽培の担い手になってもらいたいと願う相川さん。「赤米だけでなく、日本には同様の状況になっている伝統文化がたくさんある。次代を担う人たちが誇りを持って継承していく環境づくりに尽力したい」と力を込めた。

筆者:清水更沙(産経新聞)

■赤米 稲の穂先にひげ状の赤色の芒(のぎ)があることが特徴の古代米の一種。厳しい気候条件でも育ち、生命力が強いことなどから各地で栽培されていたが、品種改良が進む中で白米に比べて味が落ちることなどから次第に栽培されなくなっていった。長崎県対馬市(対馬)では赤米を「御神体」として、鹿児島県南種子町(種子島)と岡山県総社市では神事用に栽培されてきた歴史がある。

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