世界初「木造人工衛星」9月にも打ち上げ 京大と住友林業が共同開発

京都大と住友林業は、共同開発を進めていた世界初の木造人工衛星が完成したと発表した。

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京都大と住友林業は28日、共同開発を進めていた世界初の木造人工衛星が完成したと発表した。6月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)に引き渡し、9月に米ケネディ宇宙センターからスペースX社のロケットで打ち上げられ、国際宇宙ステーション(ISS)へ運ばれる見込み。衛星から送信されるデータ解析などを通じ、宇宙空間での木材利用の可能性を追求する。

従来の人工衛星は金属製だが、使用後に大気圏に再突入させて燃やすと酸化したアルミニウムの粒子が発生し、地球環境に悪影響を与える可能性が指摘されていた。木製であれば再突入時に燃え尽きて有害物質が発生しないため、環境に優しい点が特長とされる。

完成した木造人工衛星の名称は「LignoSat(リグノサット)」。約10センチ四方、重さ約1キロの立方体だ。この日、宇宙飛行士として宇宙滞在経験があり、研究総括を務める京大大学院の土井隆雄特定教授が記者会見し、「木造人工衛星は宇宙開発におけるカーボンニュートラルの第一歩だ」と意義を強調した。

世界初の木造人工衛星について会見する京都大大学院の土井隆雄特定教授(右)ら=5月28日午後、京都市左京区の京都大吉田キャンパス(泰道光司撮影)

一連のプロジェクトは、宇宙空間での木材使用の可能性を検証しようと令和2年にスタート。使用する木材は耐久性などを調べる実験を経て、北海道で伐採されたホオノキの板が用いられることになった。ねじや接着剤を使わない「留形隠(とめがたかく)し蟻組接(ありくみつ)ぎ」という日本古来の伝統技法で組み立てたという。

木造人工衛星は複数面に太陽電池パネルが取り付けられており、ISSへ運ばれた後の今秋から約半年間、宇宙空間に放出される予定。激しい温度変化の中での木造構造のひずみを測定するなどし、厳しい宇宙環境での木材の特性を解明する。

「木材」が宇宙開発の中心になるか 世界初の木造人工衛星に込めた思い

木造人工衛星打ち上げの背景にあるのは、将来予想される環境問題の存在だ。各国による宇宙開発競争の激化が見込まれる中、「時代の要請」として誕生した木造人工衛星の行方に注目が集まる。

木造人工衛星の実験用モデルを手にする土井隆雄・京都大学大学院特定教授=28日、京都市左京区の京都大学(川村寧撮影)

「将来的に木造人工衛星が主流になるべきだと思う」。28日、京都大吉田キャンパスで記者会見した宇宙飛行士で京大大学院の土井隆雄特定教授が力を込めた。

宇宙空間では役目を終えた小型の人工衛星は宇宙ごみ(スペースデブリ)にならないよう、大気圏に再突入させて燃焼させることが国際的なルール。しかし、従来の金属製の衛星では再突入の際に酸化したアルミニウムの粒子が大量に発生してしまう。その結果、地球が太陽から受けるエネルギーバランスが乱れ、気温低下などの異常気象につながる可能性が指摘されている。

土井氏によると、現在の人工衛星の数では地球環境にただちに影響はないという。ただ、今後の宇宙開発競争の激化で打ち上げ数が増加すると、将来的なリスクの高まりは避けられない。

こうした環境問題への懸念とともに、新たな選択肢として木造人工衛星が登場した。今後の見通しについて、土井氏は「将来的には(衛星内部の)電子基板部分も含めて100%木造で作りたい」と強調。宇宙空間での木材利用が認められたことを「大きな一歩」と位置付けた。

また、プロジェクトのメンバーで京大大学院の山敷庸亮(やましきようすけ)教授は「スペースデブリ削減に寄与していることなどを訴え、NASAの機関などを通し、将来的には大型な衛星にも木が使われるよう働きかけたい」と述べた。

2024年6月6日付JAPAN Forwardから転載しています

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