【佐渡生き物語】ウミネコ襲来!ヒッチコック映画「鳥」の再現か!?

新潟県佐渡島の生き物を紹介する映像記者、大山文兄のフォトエッセイの第10回目は田んぼを埋め尽くすウミネコ現象は、実は、国の特別天然記念物トキが関係していました。この「謎」をお伝えします。

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巣立ちに向け、トキのヒナが羽ばたきの訓練をしている光景が見られるようになった佐渡で、ウミネコが群れとなって田んぼに飛来するのが観測されている。空を埋め尽くす光景はまるで、サスペンスの帝王と称されるアルフレッド・ヒッチコック映画監督の代表作「鳥」の1シーンを彷彿とさせる。本来、海でエサをとるウミネコが内陸の田んぼに飛来する、その謎を解き明かす。

鳴き声とともに

ミャアミャアミャアー。まるでネコのようなウミネコの鳴き声が響き渡り、青々した田んぼにウミネコが飛来した。青い空を一瞬、埋め尽くし田に降りてエサをついばんでいる。トキを撮影するつもりでカメラを構えていたが変更、ウミネコの群れに何度もシャッターを切った。

6月下旬ごろになると、佐渡島ではウミネコの繁殖地である海沿いから200羽以上が内陸部の田んぼに飛来してエサをとりにきている。

佐渡がウミネコの一大繁殖地に

ウミネコは全長45センチ程度。カモメの仲間で、クチバシの先が赤く、白い尾に黒い帯があるのがカモメとの違いの一つだ。日本海やオホーツク海、太平洋沿岸に生息し、冬になると、越冬のため中国大陸沿岸や台湾などに移動する。日本はウミネコの繁殖地になっており、繁殖地とされるのは全国で約10箇所。青森県八戸市の蕪島(かぶしま)が有名だ。約3万羽が生息しているという。ウミネコが繁殖地に選ぶのは断崖絶壁など敵に襲われにくい場所が主だが、蕪島では営巣を観測することができる。

目の回りの赤いアイリングと、クチバシの先が赤いのが特徴的だ(大山文兄撮影)

ところが、佐渡も負けていない。2008年ごろから沿岸部で繁殖が確認されるようになり、2017年から内陸の田んぼでエサをとる姿が観察されるようになった。環境省の海鳥コロニーデータベースによると、約2000羽が生息していることがわかった。新潟大も沿岸部から田に飛来するウミドリの生態調査に乗り出した。

トキが育むウミネコ

ウミネコが内陸に飛来するようになった背景には、実はトキの保護が関係している。日本で唯一、トキの野生復帰を行っている佐渡では、トキのエサ場を確保するために、長年にわたって農薬の使用を減らした農業を行っている。新潟大の永田尚志(ひさし)教授によると、トキのために行ってきた取り組みによって田んぼに昆虫やドジョウなどの小動物が増え、エサが豊かになったことが背景にあるという。

ウミネコの繁殖地になっている佐渡の沿岸部(大山文兄)

農家の反応は?

日本のトキの絶滅は、トキが田植えしたばかりの苗を踏み荒らす害鳥扱いとされていたことが背景の一つにあった。そこで、田に集団で飛来するウミネコに対して、農家がどのように感じているのか聞いてみた。今年初めてウミネコが飛来し、追い払っていた70代の農家の男性は、「特に被害はない」としながらも、大切に育てている田にたくさんのウミネコが来ることに対して感情的に受け入れがたく、追い払っていたという。

ただ、ほとんどの農家は静観の構えだ。実際、ウミネコは農薬を減らすことで増えた昆虫を食べてくれるわけだから、ありがたいともいえる。トキとエサの取り合いになるほどの数ではないが、永田教授は、ウミネコの行動を調査するため、佐渡島内の2つの繁殖地で100羽のウミネコのヒナに足環をとりつけた。

人が来ても逃げないウミネコ(大山文兄撮影)

ふん爆弾

トキの保護活動は、ほかの鳥にとっても生きやすい場所を提供していた。生物多様性が豊かな佐渡は「鳥の楽園」ともいえる。

フンをしながら飛ぶウミネコの群れ。中央の白いものがフンだ(大山文兄撮影)

ところで、ウミネコの撮影時にありがたくないお土産をもらう羽目に。車の屋根に、無数のふん爆弾攻撃を受けてしまった。鳥の楽園は、ヒトにとって楽園とはいえないようだ。

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大山文兄(おおやま・ふみえ)産経新聞社写真報道局で新聞協会賞を2回受賞。新聞社時代に11年間にわたり、トキの野生復帰を取材。2020年に退社して佐渡島に移住、農業に従事しながら、トキをはじめとする動物の写真を撮り続けている。映像記者として佐渡の魅力を発信中。インスタグラムでフォローしてください

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