資源の乏しい日本を救う ナトリウムイオン電池 EV搭載も
リチウムイオン電池からナトリウムイオン電池への転換に挑む
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脱炭素社会への関心が高まり、電気自動車(EV)の開発や再生可能エネルギーの活用が進む中、両者に欠かせない次世代蓄電池の研究が加速している。現在主流となっているリチウムイオン電池は、スマートフォンの普及に大きな役割を果たしたが、原材料となるリチウムは南米などに偏在。供給が国際情勢に左右されるリスクがある。そこで、新たに注目を集めているのは、地球上に豊富に原材料が存在するナトリウムだ。電気自動車(EV)用の車載電池への期待も膨らむ。資源が乏しい日本だからこそ、アイデアと創意工夫で挑む次世代蓄電池の開発物語とは。
5年で「おさらば」
2023年中にナトリウムイオン電池を実用化する-。
昨年7月、中国の電池メーカー「寧徳時代新能源科技」(CATL)の発表に、衝撃が走った。ナトリウムイオン電池の実用化が実現すれば世界初とみられ、主流を占めるリチウムイオン電池に一気にとって代わる可能性もある。
ナトリウムイオン電池研究の第一人者で、2009年に世界で初めて安定的に100回以上の充放電が可能なナトリウムイオン電池の開発に成功した、東京理科大の駒場慎一教授は「場合によっては『リチウムはあと5年でおさらば』という状況になるかもしれない」と話す。
現在、スマホやノートパソコン、デジタルカメラなどに幅広く使われているリチウムイオン電池。1991年に商品化されると、小型で大容量の蓄電池として注目を集め、スマートウオッチなど新たな情報端末を生み出す原動力になった。
ただ、リスクもある。損傷や過充電が原因で発火する危険があり、実際に事故が起きている。
また、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの活用が広がったことを受け、より大容量の蓄電池の需要が高まり、リチウムをめぐる競争が激化。原料となる炭酸リチウムは価格が最近1年間で5倍以上に跳ね上がったとするデータもある。
こうした状況で新たな電池の材料として白羽の矢が立ったのが、地球上にほぼまんべんなく存在しているナトリウムだ。海水から取り出すことができ、事実上無尽蔵といえる。
覆る〝常識〟
ナトリウムイオン電池の動作原理はリチウムイオン電池と同じ。正極と負極の間を電気を帯びた状態のナトリウムが移動することで充放電を行う。
仕組みが同じで資源が豊富であるにもかかわらず、これまでナトリウムを使った電池が実用化されなかったのは、リチウムに劣る根本的な弱みがあるからだ。原子核を構成する陽子の数に応じた原子番号は、リチウムの3に対し、ナトリウムは11。一般的に原子番号が大きいほど重くなることから、同じ容量の電池を作った場合、理論上、ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池より重くなる。
しかし、技術の進歩はそんな常識を覆そうとしている。駒場氏は一昨年、負極に使う炭素材料に特殊な加工を施すことで、充電容量を大幅に改善。「正極の開発が進めば、容量でリチウムを超えられるかもしれない」と自信をみせる。
さらに、ナトリウムイオンはリチウムイオンより電池内を高速で動けるため、充電時間はリチウムイオン電池の半分から5分の1ほどに短縮できる可能性がある。出力が落ちやすい低温環境にも強いという。
全固体電池も
従来の蓄電池と全く異なる形態をとる電池の開発でも、ナトリウムイオン電池が存在感を示している。
通常の蓄電池は正極と負極の間を電解液と呼ばれる液体で満たしているが、この液体が可燃性だと発火のリスクがあり、凍結するような低温になると出力が低下したり、機能しなくなったりする。
そこで研究が進むのが、電解液を固体に置き換えた「全固体電池」だ。低温でも動作し、発火などの危険を大幅に抑えられる。
国内外の企業が開発にしのぎを削る中、日本電気硝子(大津市)は昨年11月、正極や負極に結晶化ガラスを使い、電池全体を燃えにくい固体材料にした全固体ナトリウムイオン電池の開発に成功したと発表した。厚さ0・3ミリほどの板状で、複数枚重ねることで必要な出力を得る。
同社は2020年代半ばの量産化を目指すといい、角見(かどみ)昌昭・研究開発本部長(57)は「資源の乏しい日本はナトリウムイオン電池に注力して損はない。脱炭素を追い風に市民権を得られれば」と願いを込めた。
筆者:花輪理徳(産経新聞)
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