発酵王国の宝を世界に

醤油メーカーが考案した新しい発酵法。業界の持続可能性の促進を図る。

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'Napa Valleys' of Japan: Fermentation Tours as New Attraction
(日本の“ナパ・ヴァレー”:発酵ツアーという新たな旅の楽しみ方)

味噌(みそ)や醤油(しょうゆ)、酒、漬物は言わずもがな、日本の伝統的な食品である。それらを生み出す発酵技術にいま、世界の美食家たちのバイブル、ミシュランガイドに登場する星付きレストランのシェフや料理研究家らが熱いまなざしを注いでいる。

英語ニュース・オピニオンサイト「JAPAN Forward」(JF)でこの1週間、最も読まれたのが、日本の発酵文化をテーマにした記事だった。上の英文(日本語訳)の見出しの記事がそれである。

「ナパ・ヴァレー」は、ワイン好きにはよく知られた米カリフォルニア州の名高いワイン生産地である。はて、見出しにある「日本の“ナパ・ヴァレー”」とはいったいどこのことなのか。これは少し説明が必要だ。記事を紹介しよう。

海外にも、チーズやワインなどの発酵食品は多くある。日本は、麹(こうじ)(糀)を使って米や大豆、麦、野菜、魚といったさまざまな食材を発酵させて、多種多様な食品を生み出してきた。なぜ、日本の発酵文化に関心が高まっているのか。

米国でたまり醤油の製造・販売をするサンジェイ インターナショナル(San-J International)の佐藤隆社長によると、日本の発酵文化が豊かで歴史があり、世界で最も洗練された文化のひとつであることを、海外の食の専門家たちが発見したことが大きい。

「もっと深く知りたい」「日本の発酵食品づくりを体験したい」-。海外でのそうした声に応えて、佐藤さんらは「発酵ツアー」を企画した。

米国からミシュランの星付きレストラン・シェフや食の評論家、飲食業界関係者に加え、趣味で食品づくりを楽しむ人ら総勢23人が来日。10月8~10日まで、富山から福井、金沢をめぐり、実際に納豆や醤油、味噌、鮨(すし)、酒づくりを担う製造元を訪ねて学んだ。JFのアリエル・ブゼット記者も1日だけ参加した。

ツアーを受け入れた各製造元は、参加者たちに発酵の素晴らしさを積極的にアピールした。ヤマト醤油味噌は「糀で作られた発酵食品は、腸内の健康に良いことを世界に伝えたい」と力を込めた。一方、酒造会社、福光屋のモットーは「伝統とイノベーション」だ。お酒のほか、化粧品を開発し商品化している。四十萬谷(しじまや)本舗では、参加者はかぶら寿しを試食し、自ら糀漬けを体験した。

参加者たちからは「糀を使った発酵の可能性は無限だ」「ヴィーガン(完全菜食主義者)の食品づくりに糀はピッタリ。もっと深く学びたい」といった反応が寄せられた。

しかし、問題はある。1972年に6000社あった日本の醤油メーカーは1100社に減った。佐藤さんは、日本に小型の「ナパ・ヴァレー」をつくり、ワイン・ツアーのように、糀の発酵ツアーを展開することで、発酵文化の新たな可能性を創出し、伝統的なメーカーが100年後も存続できるようにしたいと語った。そのうえで、最終的な目標は、「納豆スパゲティ」といった、日本と世界を結び付ける「新しい発酵文化が生まれてほしい」と強調した。

発酵王国・日本の宝は、伝統を生かして新たなことに挑戦し、未来を切り開いていく人たちだ。新型コロナの水際対策がようやく終わった。歴史的な円安もあって多くの外国人が日本を来訪し始め、新たなチャンスが到来している。JFは、そんな日本の“宝物”たちの挑戦を世界に伝えていきたい。

(JAPAN Forward編集部)

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