水素供給2040年に6倍へ 官民15兆円投資で普及後押し
政府が再生可能エネルギー普及のための水素基本戦略を改定する。2040年に水素供給を6倍に、15年間で15兆円を投資する計画。
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政府は4月4日、再生可能エネルギー普及拡大の一環として水素基本戦略を5月末をめどに改定する方針を明らかにした。改定案では、2040年の水素の供給量目標について、足元の200万トンから6倍となる1200万トン程度まで増やすことを検討すると明記。今後15年間で官民合わせて15兆円を投資する計画で、水素エネルギーの普及を後押しする。
4日午前に開かれた再生可能エネルギーの普及拡大に関する会合で岸田文雄首相が改定を表明した。民間投資を促し、オーストラリアや中東、アジアと連携してサプライチェーン(供給網)の構築の支援を加速させる考えも強調。日本発の技術となる次世代の太陽電池「ペロブスカイト電池」の実用化について、30年を待たずに目指す意向も示した。
岸田首相は「脱炭素を進めるには民間による投資を加速させていく必要がある」と述べ、20兆円規模の新たな国債「GX経済移行債」の活用も後押しする。
主導権競争激化
政府が6年ぶりに水素基本戦略の改定に踏み切るのは、有望な次世代エネルギーである水素の普及は脱炭素化やエネルギー安全保障の成否の鍵を握るからだ。日本は平成29年に世界初の基本戦略を策定するなど水素活用に向けた取り組みで先行してきたが、ウクライナ危機後は欧米でも水素普及へ巨額の投資策が発表されるなど国際的な競争が激しさを増している。改定を契機に水素活用の早期具体化に道筋をつけられるかが問われそうだ。
「水素社会を広げる中でも国産の技術は重要だ」。昨年11月、山梨県の水素関連施設視察後、西村康稔経済産業相はこう強調した。
西村氏や岸田文雄首相らが水素関連施設に度々足を運ぶなど、化石燃料由来のエネルギー資源に乏しい日本は、水を電気分解して得られる水素の活用に向け積極的に取り組んできた。
特に、火力発電で化石燃料に水素を混ぜる「混焼」により二酸化炭素(CO2)を削減する技術などは日本が先行する。今年3月に東京都内で開催されたアジアの脱炭素化で協力する枠組み「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」閣僚会合でも日本の水素関連技術は注目を集めた。
ただ、ロシアのウクライナ侵攻以降、資源大国であるロシアへの依存度を下げる方向で世界のエネルギー政策は大きく転換。欧米を中心に巨額投資を伴う水素関連政策の発表が相次いでいる。
欧州連合(EU)の政策執行機関、欧州委員会は昨年7月に官民で総額140億ユーロ(約2兆300億円)超、9月に120億ユーロ超の投資を行う計画を発表。米国も昨年8月成立の総額4300億ドル(約57兆円)規模の「インフレ抑制法」で、「クリーン水素製造」に対する大規模な減税策を盛り込んだ。
水素活用に向けた動きが活発化する中、研究開発で世界をリードする日本にとって優位性を確保し国際競争を勝ち抜く上での課題は早期の商用化だ。環境整備に向け、官民が一致団結し、具体的な成果を出すことが求められる。
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