間伐材が癒やしの精油に 「循環型」が作る林業の未来

京都の山中にある工房では、伐採された木の枝や葉、廃材などを使用して、精油作りをしている。

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資源をできるだけ長く循環させながら利用することで、廃棄物などの無駄を富に変える「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」。この仕組みをもとに、京都市内の工房が不要になった間伐材などを原材料とした精油作りに取り組んでいる。林業が低迷して放置されている山が多い中、捨てられるはずだった木材を循環させ、森林の維持にも一役買う-。国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の一つ、「森林の持続可能な管理」にもつながるとして注目される。

独自システム

「そろそろ時間かな」。1月中旬、杉の山を臨む田畑の一角にある工房「杉乃精」で、運営する村山寛さん(74)が大きな寸胴鍋のふたを開け、真っ白な湯気とともにクロモジの枝葉を取り出した。

ここはJR京都駅の北西約35キロに位置する京都市右京区の京北地区。約9割を森林が占め、昔から良質な木材の産地として知られた地で、村山さんは10年以上にわたりオリジナルの蒸留システムを開発して精油作りにいそしんできた。

工房ではオリジナルの蒸留システムで精油を取り出す=京都市右京区

「この地は燃料から原料、水まで必要なものがすべてそろった宝の山」が持論だ。原材料の芳香植物は、クロモジや北山杉など10種類以上あるが、ほとんどが間伐材や枝打ち後に廃棄される枝葉で、たまに購入することもある。枝葉を蒸す際にも、廃材や山に放置された木を薪として使う。工房に持ち込めば、薪用として無料で引き取ってもらえるので、使わなくなったタンスなどを運び込む人もいるという。

さらに蒸留のときに使う冷却水は工房近くを流れる水路の地下水で、精製後に残る搾りかすは畑の肥料にと、地域のあらゆる資源を循環させる仕組みを構築。「『SDGs』の言葉がはやる前からやっていたことですよ」と笑う。

資源は無数に

村山さんは長年林業やその知識を生かした仕事に携わってきたが、55歳のとき、引退して地元の京北地区に戻って農林業をしようと決意。しかし、昭和30~40年代の高度経済成長期に戸建て住宅に使われた地元の象徴・北山杉は、需要が減った影響で放置され、山は荒れ放題になっていた。

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「杉乃精」を運営する村山寛さん=京都市右京区

そこで、北山杉を使ったせっけん作りに乗り出した。北山杉から採取した精油と燃やした枝葉をメーカーに送ってせっけん製造を依頼していたが、当初は余った精油は廃棄していた。たまたま工房見学に来たセラピストの女性に「もったいない。これが高く売れるんや」と教えられ、本格的に精油作りに挑戦。このときから、間伐材や廃材など周囲に無数にある〝資源〟を使い始めた。

今では全国から技術を教えてほしいとの相談が寄せられ、栃木や群馬、和歌山など9カ所で村山さんのシステムを使っての精油作りが始まっている。

「使えるのに捨てられるものはどこにでもあるはず。それを生かす技術を無償で伝え、荒れた山を再生して地方の産物を作る手伝いをしたい」

京北で生まれた新たな「循環型林業」の仕組みを全国に広げようと奔走している。

杉精油は1100円から、黒文字精油は2200円からで、杉乃精のホームページから購入できる。

「5R」知ってますか

「リユース(再利用)」「リデュース(削減)」「リサイクル(再生利用)」の「3R」に「リフューズ(廃棄するものは買わない)」「リペア(修理しながら使う)」を加えた「5R」。これらがすべて含まれて初めて「サーキュラーエコノミー」は構築されるという。

国内では令和3年、環境省と経済産業省、経団連が循環経済の取り組みの加速化に向けた「循環経済パートナーシップ」を発足した。

ただ、サーキュラーエコノミーへの認知度は高いとはいえない。令和3年に公表された電通総研・電通の「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」では、SDGsについて日本で「内容まで知っている」「内容は知らないが言葉だけは知っている」としたのは70・4%だったものの、サーキュラーエコノミーについては29・6%。米国、ドイツ、中国、インドなど12カ国中で最低となった。

筆者:田中幸美(産経新聞)

■目標15「陸の豊かさも守ろう」
あらゆる種類の森林の持続可能な経営を進めて森林減少を阻止、劣化した森林を回復させる。森林、湿地、山地などの陸域生態系の保全、回復、持続可能な利用を推進する。

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