迷惑施設!? 大阪の世界一美しい、アートなゴミ処理場

外観が目を引く大阪の焼却施設・舞洲工場。環境・リサイクルを考える機会を提供している。

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「世界一美しいといわれるゴミ処理場」が大阪にあるのをご存じだろうか。ユニーバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)がある大阪市此花区の大阪広域環境施設組合舞洲工場だ。鉄とアルミのリサイクル、蒸気を活用して発電も行っている。アートなデザインから見学者も多く、ゴミ、SDGsの理解に寄与している。税金の無駄遣いとたたかれたこともあった施設だが、その判断はー。

テーマパークのような外観 テーマは「自然との調和」

約1.6キロの長大な此花大橋を渡り人工島・舞洲(まいしま)に入ると、目に飛び込んでくるのが水色の塔に黄金の球、カラフルな窓やモザイクの壁を持つ舞洲工場だ。テーマパークのお城のようにも見える。実際にUSJと間違われたこともあったという。

デザインしたのは、オーストリア・ウィーンの芸術家、フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー氏だ。

Maihama Incineration Plant
竣工から20年以上が経過し、緑も成長している(杉浦美香撮影)

画家であり、建築家であり、環境保護活動家であるフンデルトヴァッサー氏のコンセプトは「技術、エコロジーと芸術の調和」。「自然界には定規で引いたような直線や全く同一のものは存在しない」という考えから、建物は曲線が多用され、自然と調和させるため多くの緑に囲まれている。装飾も含めて窓の数は500以上。一つとして同じ形のものがない。壁面の赤と黄のストライプは、工場の内部で燃焼する炎を表現しているという。

大阪オリンピック構想の遺物だった

アートな舞洲工場の誕生の背景は、2008年夏季オリンピックの招致を目指していた大阪オリンピック構想がある。220ヘクタールの広大な面積の舞洲に主要な競技施設を集約し、オリンピック開催を前提にランドマークとして建設されたのが舞洲工場だった。数百メートル離れて同じフンデルトヴァッサー氏のデザインによる舞洲スラッジセンター(下水汚泥処理場)もある。舞洲の玄関口で、訪れた人の目を引くという形になっている。

舞洲スラッジセンター。赤いストライプ模様は汚泥を処理する炎という(杉浦美香撮影)

舞洲工場の事業費は約609億円。1997年に着工、2001年に竣工。焼却炉が2基あり、1日の焼却能力は900トン。1日170トンの粗大ゴミ処理設備もある。

大きな爪

今年4月に就任したばかりの中村俊一工場長の案内でまずは5階へ。申し込みをすれば誰でも無料で見学できる。記者が訪れたときも、年配の夫婦に1人の職員がついて案内、ぜいたくな大人の社会見学を体験していた。

迫力満点のクレーンバケット(杉浦美香撮影)

直線を廃したクネクネとした、カラフルな通路を歩いて最初に案内されたのは、ゴミ貯留ピットだ。ガラス越しではあるが、大型クレーンのバケットが廃棄物をがっしりわしづかみにするのを間近で見ることができる。一つかみが最大12トン。実物大のバケット模型もあり大きさを実感できる。子どもたちに人気のエリアだという。

ホコリが舞うゴミピット内で整備にいそしむ作業員。多くの人に支えられている(同工場提供)

売電価格約6億5700万円

3階では、ゴミ焼却で得られた熱から電気を作る蒸気タービン発電機を見学することができる。火力発電所と全く同じ原理だ。

「廃棄物発電で作った電気の約3割を自分たちで使って、残りを電力会社に売却して収入を得ています」と中村工場長。

毒性が高いダイオキシンは、低い温度で燃やした場合に発生することから、焼却炉の温度は常に900度以上という高温で燃焼している。その熱量で作った蒸気と電気を一部自分たちで使い、残りを電力会社に売却、蒸気の一部も近隣のスラッジセンターに供給している。

24時間稼働させるために、中央制御室には職員も24時間詰めている(同工場提供)

2021年度の売電収入は約6億5700万円。売電価格に上下するため、固定価格買取制度(FIT)で2018年度には11億円の収入になったこともあった。アルミ、鉄の回収も行っており、こちらは同年度で8千万円、スラッジセンターへの蒸気供給収入は600万円程度になるという。

Japan 2 Earthで以前、紹介したツネイシカムテックス(広島県福山市)の埼玉工場(「ゴミは宝の山 ここほれワンワン」の記事はこちら)では、一般家庭ゴミの焼却灰から金銀白金などの希少金属を取り出していた。舞洲工場でのゴミが宝にある可能性について聞いてみた。

「焼却灰の中から貴金属を取り出すことについては、学識経験者からの提言で、導入について課題整理の調査を行うことになっています」と中村工場長。

迷惑施設ではない、「見て来て楽しい」で理解を深める

刑務所や火葬場、そして廃棄物処理場は、迷惑施設とされることが多い。英語では、NIMBY(not in my backyard)。といわれる。必要とわかっていても自宅そばはお断り、というのは世界共通だ。

舞洲工場は、負のイメージの廃棄物処理場をあえて派手な色使いで目立たせ、自分たちの生活から切り離せないということを訴えているといえるだろう。

金色の輝きは未来の夢と希望を表しているようだ(同工場提供)

新型コロナ感染拡大前の2019年度までのデータを見ると、毎年1万5000人~1万7000人が見学に訪れていた。デザイン目当てでゴミ処理場と知らずに訪れる人もいた。当時の最新鋭の設備が導入されていることから、海外からの視察も多かったという。

迷惑施設とみなされる理由の一つは、ダイキシンなどの危険物質流出などへの懸念がある。ただ、同工場長によると、環境基準よりさらに厳しい自主基準を設けている。2019年の舞洲工場の排ガス中のダイオキシン濃度は、0.0015~0.000090ng-TEQ/m3N (ng=ナノグラム、m3N=立法メートルノルマル、TEQは毒性の強さ)だった。

「焼却場ではかつて白い煙が煙突から上がっていましたが、舞洲工場では900度以上で完全燃焼し高度な排ガス処理設備を導入しており、煙は無色透明になり無害化されています」と説明する。

見せるゴミ処理場は、舞洲工場だけではない。

広島市中区にある広島市環境局中工場は、施設内部が現代アートのようにおしゃれで注目されている。デザインは、米ニューヨーク近代美術館(MoMA)なども手掛けた建築家の谷口吉生さんだ。カンヌ国際映画祭で4冠を得た濱口竜介監督の映画「ドライブ・マイ・カー」のロケ地にもなった。

海外では、フンデルトヴァッサー氏の母国オーストリアのシュピッテラウ焼却場、そしてデンマークの首都コペンハーゲンにあるスキー場を併設した「コペンヒル」が筆頭だろう。処理場の上で市民がハイキングやスキーを楽しんでいる。

「デザインをきっかけに施設を見学してもらい、身近なゴミ問題について関心を持ってもらいたい」と中村工場長は話す。

課題は長寿化

ゴミ処理場は人口の減少や3R(Reduce、Reuse、Recycle)実践によるゴミの減量化で、広域化と集約化が進んでいる。 2011年に全国で1211施設あったが、2020年には12%減の1056施設になった(環境省)。

施設に設けられた庭園で説明する中村工場長(杉浦美香撮影)

舞洲工場も建設当時は大阪市環境局の管轄だったが、近隣の八尾市、松原市と共同で行う「一部事務組合」を設立、2019年に守口市も加わり4市、6施設の大阪広域環境施設組合として構成されている。メンテナンスで稼働休止になっても6施設で補い合い運営する。整備・配置計画で、舞洲工場は12年後に改良工事を行うが、他施設と違いデザインを保ちながら延命化する。その際、発電効率を現在の約20%からアップする。

ゴミ発電は再生可能エネルギー電源に位置付けられており、2050年までにCO2実質排出ゼロを目指す「カーボンニュートラル」の実現に向けて期待が集まっている。

日本で最初のゴミ発電を行ったのは1965年、大阪市の西淀工場だった。2025年の大阪・関西万博の開催場所は舞洲の隣の人工島、夢洲になる。どちらも、ゴミ処理の埋め立てでできた。

万博のテーマの一つは「SDGs+Beyond への飛躍の機会」だ。パビリオンの入札が相次いで流れ開幕の遅れが懸念されるなど、問題が山積している。真の税金の無駄遣いにならないために、世界に大阪、そして日本のために、舞洲工場を活用して「環境日本」をアピールしてほしい。税金の無題遣いになるかどうかは、我々にかかっている。けっして「NIMBY」といって目をそむけてはならない。

私たちが私の過去を誇りとしないなら
私たちは私の未来を失う。
私たちが私たちの根元を破壊するなら
私たちは大きくなれない。

日本を愛したフンデルトヴァッサー氏のメッセージが私たちに語っている。

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