ごみ焼却炉はエネルギー生産施設 効率化には大型化が必要

廃棄物焼却プラントのプロは、日本は、地方自治体ではなく、国立化して大型化を目指す必要があると説きます。

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50超のごみ焼却施設の設計から稼働までを手掛けてきた廃棄物焼却プラントのプロは、日本は、地方自治体ではなく、国立化して大型化を目指す必要があると説きます。長年にわたって、廃棄物プラントに携わってきた、大手エンジニアリング会社「JFEエンジニアリング」(横浜市)環境技術統括フェロー、鈴木康夫氏に、日本のあるべき姿について聞きました。

廃棄物、リサイクル事業が花形に

――廃棄物に携わられたきっかけは何でしたか?

廃棄物の設計、プロジェクト管理、受注前の営業先への提言、焼却技術開発を行い、関わったプラントの数は50を超えます。大学では機械工学を専攻しました。同期の多くが自動車メーカーなどに就職しました。廃棄物プラントに関わるようになったのは、指導教授の講義資料を作る手伝いをしたのがきっかけです。

――JFEエンジニアリングは製鉄、造船がルーツですが、入社から廃棄物担当の部署に配属されたのですか?

入社面接から製鉄に興味はありませんと生意気なことを言っていました。ごみは臭いと敬遠されがちで当時、ごみ処理はマイナーな部門でした。1970年代、東京はごみ戦争と言われ、焼却施設建設に住民が反対し大騒ぎにはなっていました。その後、ダイオキシン汚染騒ぎが起き、対策技術も開発され当社の焼却プラント、リサイクルなどの環境分野が全体の売り上げに占める割合も、現在は6割~7割と高くなりました。

廃棄物分野のCO2割合は3%

――プラント技術も公害の有害物質対策などから、地球温暖化を防ぐためにCO2削減へと変わっていますか?

対象が窒素酸化物やダイオキシンからCO2削減となったとしても、「適用可能な最善の技術(BAT=Best Available Technology)」を使う基本の考え方は変わりません。

CO2削減で言えば、中間のごみ処理の段階で脱炭素をすることに疑問を持っています。国内で同部門が出しているCO2の割合は3%程度です。大量に排出する鉄鋼、化学などの製造や発電分野で脱炭素されていれば、理論上、処理段階で脱炭素する必要がありません。しかし、一般廃棄物は市町村の責任のため、少々コストがかかっても、説明しやすい。迷惑施設ということで安全とされる基準よりもはるかに低く設定しており、そのうえCO2削減も行い、脱炭素をアピールする。民間と違って税金ということでコストを考慮しない面があって、CO2回収を進めやすいようです。

2023年3月に完成したばかりの600t/日の目黒清掃工場=東京都

効率が悪い日本のごみ焼却施設の発電

――焼却施設は発電も行っており脱炭素、エネルギー供給の役も担っているのでは?

令和2(2020)年度、1056か所あるゴミ焼却施設のうちの発電を行っているのが約3分の1にあたる387か所です。ただ、規模が小さく、300t規模を大型としていますが、1日の処理量が100tの小型のものが多く、効率が悪い。

ごみがエネルギー供給源となっている欧州

――世界の参考事例がありますか?

例えば、オランダ・アムステルダムのごみ処理量は4400t/日です。足りなければ他国からも船や貨車などで運んできます。電気だけではなく、多くは地域熱供給源となっており大型で効率もよく、住民も恩恵を受けています。プラントがなくなることに反対が起きたりします。立地が反対される日本とは逆です。処理などに関わる運営事業者もフランスの「ヴェオリア」の売り上げは数兆円規模と大きい。日本では数百億円規模です。

JFEエンジニアリングが手掛けたプラントの写真の前に立つ鈴木氏(杉浦美香撮影)

国立化して大型化へ

――日本の進むべき道への提案をお願いします。

日本の一般廃棄物は市町村に任せており、効率が悪い仕組みが拡散しています。自治体が主体のため国が直接手をかけずにコントロールしやすい面もありますが、2050年にカーボンニュートラルを達成するためには、自治体枠をはずして国が、4千t/日級の大型プラントを設置して効率化させる。 最適技術「BAT」をどんどん取り入れる。そうでなければ目標を達成できません。立地も、人里離れた地ではなくコンビナート地帯に建設し、電力や熱を工場に供給して効率化を実践するべきです。

民主党政権時代に再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が導入されました。福島原発事故後には国が、福島県内に仮設焼却施設を設置しています。石炭から石油に切り替わる時、国は大きなお金をつぎ込みました。技術、イノベーションでなんとかなるといっても限界まできており、社会、制度面で対応する必要があります。

――高温多湿、島国の日本の取り組みはアジア各国で参考になるのでは。

ごみ処理は、分別・収集から運搬、中間処理、最終処分の全てが整ってないと成立しづらいですが、多くの国はそれが整っていない。いきなりごみ焼却施設を作っても役に立たない。制度を前提にしなければならないのが難しいところになります。

ヨーロッパではごみ焼却施設が熱エネルギー供給源という位置づけだが、日本では「Not In My  Back Yard(NIMBY施設=迷惑施設)」とみられがちだ。そのために、安全基準以上の独自の厳しい基準を設定してきたが、脱炭素という地球課題解決につなげるためにコスト意識、プラントの国立化、立地といった大胆な制度改革が必要という鈴木氏の指摘は示唆に富んでいた。

【経歴】鈴木康夫(すずき・やすお) 1960年生まれ。 神奈川県出身。東京都立大学工学研究科機械工学専攻修士課程修了。1984年 日本鋼管(現・JFEエンジニアリング)入社。ごみ焼却施設設計部門に配属、 環境本部主席などを歴任。2023年 から環境技術統括フェロー。ストーカ炉、流動床炉、ガス化溶融炉などの開発・設計・プロジェクトマネジメント・技術供与に従事。

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