夢広がる月でのサラダバイキング 自給自足のカギ握る小惑星リュウグウ

月面での人類の世界的コニュニティー創設を目指している国際的非政府組織が、シンポジウムを岡山県倉敷市と鳥取市で開いた。

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月で人間は生存できるようになるのか-。月面での人類の世界的コニュニティー創設を目指している国際的非政府組織が12月、グローバル・ワークショップ&シンポジウムを岡山県倉敷市と鳥取市で開いた。この中で、岡山大学惑星物質研究所(鳥取県三朝町)の中村栄三特任教授が発表した内容が注目を集めた。それは、生命の生成・維持に必要な元素でできている小惑星を、何らかの方法で月に運び込み、その土で月面での食料生産を実現させようという壮大なアイデアだった。

リュウグウの土を合成

このイベントは、国際的非政府組織「Moon Village Association」(MVA)が主催し、4日間の日程で開催。月面への恒久的な移住に関心を持つ政府や産業界、学術界、一般市民による世界的なコミュニティー創設を目指しており、60カ国以上から600人以上の個人会員と33の機関会員が加入している。今回は2019年に続く2回目の国内開催となった。

この中で中村さんは、「月面でサラダを食べよう」という演題で講演した。サラダの発想の根幹となるのは、小惑星「リュウグウ」の組成成分を解析し再現した土でレタスなどの試験栽培に成功したという結果だ。

月での自給自足の可能性について講演する岡山大の中村栄三特任教授=岡山市北区(和田基宏撮影)

中村さんが在籍する惑星物質研究所は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「はやぶさ2」がリュウグウから持ち帰った直径1~4ミリの微粒子試料16粒の初期総合解析を担い、アミノ酸23種類など有機物が地球より豊富なことを解明した。

一方、月には生物に必要な炭素や酸素、水素、窒素がほとんどない。米国のアポロ計画で採取された月の土に植物を植えて水と栄養剤を十分に与える実験で、発芽したものの2~3週間で枯れたとの結果が出ている。中村さんは「月面の土は宇宙線や太陽風などの影響を長い間受けて風化しており、植物の栽培は不可能」と説明する。

小惑星を月に運ぶ方法

「月での自給自足には外部からの土の調達が必要だが、水や土や肥料を地球から継続的に運ぶのは莫大(ばくだい)なコストがかかる」。そこで着目したのがリュウグウの試料だ。研究所で再現した土を合成し、今年、両備グループアグリビジネス推進部と共同で、レタスや水菜、ソバなど約10種類の種をまくと3~4週間の間にソバは花を咲かせ、葉物野菜は発芽して生育したという。

リュウグウの土を月に持ち込めば、野菜が育てられ、自給自足できるかもしれない。しかし、どうやって月に小惑星を運ぶのか。

リュウグウの再現土で栽培された野菜(手前の2箱)=岡山市北区(和田基宏撮影)

はやぶさ2のミッションマネージャを務めたJAXA宇宙科学研究所の吉川真准教授は、この関連イベントで、小惑星の軌道を推定し人工衛星などを衝突させるなどして地球への衝突を防ぐプラネタリーディフェンスの分野について講演。その中で、地球や月に向かってくる軌道の小惑星は3万個以上確認されており、リュウグウと組成が似ている大きさ7~8メートルの小惑星を捕獲装置でつかまえて月に運ぶ方法や、小惑星の石を運び出す方法などの可能性について説明した。

日本主導で進めたい

中村さんによると、月探査や開発への動きは世界的に再び活発化しているが、2045年をめどに月に1000人規模の村をつくろうという計画はさまざまな課題が解決に向けてあまり進んでいないという。例えば、月には大気がなく、重力は地球の6分の1で、表面温度は100度超からマイナス170度以下と温度差が大きく、今のままでは人類が暮らすことはできないという問題もある。

「りゅうぐうサラダ」を食べる岡山大の中村栄三特任教授(右)と那須保友学長=岡山県倉敷市(和田基宏撮影)

宇宙科学研究所の春山純一助教は、月面に直径50~100メートルの巨大な縦孔(たてあな)を世界で初めて発見。縦孔の底には火山活動で溶岩が作った地下空洞「溶岩チューブ」があり、縦孔を利用したスペースコロニー建造の可能性を示唆した。

今回のイベントの晩餐(ばんさん)会では、レタスやルッコラなどが「りゅうぐうサラダ」として振る舞われ、中村さんは「辛みもあり、味はふつうの野菜よりくっきり感じた」。通常の水耕栽培に比べるとサイズは小さいが、中村さんは「栄養素の最適な濃度や栽培を阻害する成分の除去、育ちやすい植物の判別などの研究を進め、遜色のないサイズ、品質、量産を実現したい。自給自足に関して希望がみえてきたので、日本主導でプロジェクトを進められれば」と力を込めた。

2024年1月3日付産経新聞から転載しています

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