独自濾過技術でサーモン陸上養殖 新鮮お届け、都心まで1時間 FRDジャパン

サーモンを東京近郊で陸上養殖し、新鮮なまま店舗に届ける水産系スタートアップがある。

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サーモンを東京近郊で陸上養殖し、新鮮なまま店舗に届ける水産系スタートアップ(新興企業)がある。平成25年設立のFRDジャパン(さいたま市)だ。養殖に水道水を使い、水換えがほとんど要らない独自の濾過(ろか)技術を開発して安定生産を実現し、一大消費地近くでの出荷を可能にした。現在はまだ小規模生産にとどまるが、3年後には量産化に乗り出す。

回転ずし人気1位

サーモンといえば回転ずしでおなじみのネタだ。水産食品大手のマルハニチロが毎年実施する回転ずしに関する消費者実態調査では、今年もマグロなどを抑えて13年連続でネタの人気1位を獲得しており「不動の人気ナンバーワンネタとして地位を確立している」(同社)。「脂がのっている」「濃厚」などの味わいだけでなく、オニオンを乗せるなどアレンジが豊富なことも人気の理由だ。

木更津プラント内の水槽では年間約1万尾のサーモンが生産される=千葉県木更津市(FRDジャパン提供)

1人当たりの購入量も魚の中で最も多く、サーモン類の年間消費量は約30万トンとされる。このうち大半はチリやノルウェーなどで海面養殖された輸入品で、地球の反対側から冷凍で運ばれてくる。冷凍する際にどうしても味が落ち、食感も悪くなることから、一度も冷凍しない鮮度のいい養殖サーモンで対抗しようと考えたのがFRDジャパンだ。

水換えは1%のみ

もともとアワビの陸上養殖を行っていたが、サーモンの方が市場が大きく事業性があると判断。平成29年に陸上養殖の産業化を推進する三井物産から9億円の出資を得ることに成功し、30年から埼玉プラント(さいたま市)と木更津プラント(千葉県木更津市)での実証実験を始めた。

陸上養殖には、海水などを取水・排水する「かけ流し式」と、飼育水を濾過して浄化する「閉鎖循環式」があるが、FRDジャパンは、独自の濾過技術を取り入れた閉鎖循環式を採用する。

循環式は、海や川を汚さないだけでなく、魚の病気の原因となるウイルスや細菌の侵入もなくなるといったメリットがある。だが、従来の循環式では、魚の排泄(はいせつ)物に含まれる毒性の強いアンモニアなどの不純物が水槽にたまってしまうのを防ぐため、1日に30%程度の水換えが必要だった。

そこで同社は、バクテリアの働きでアンモニアを毒性の低い硝酸に変え、その次に別のバクテリアで硝酸を窒素に変換して大気中に放出する2段階の高度な濾過技術を開発。これにより、1日にわずか1%の水換えで済む透明度の高い飼育水を実現した。水換えは蒸発などによる減水分のみという。

飼育水は水道水から作っているため、水温管理もしやすい。サーモンの適水温は15度前後だが、海水温が高くなる夏場は冷却のための電力コストがかさむのだという。

3年後に量産化

飼育は孵化(ふか)から6カ月までは埼玉プラントで行い、その後、木更津プラントに移される。約1年かけて3キロの大きさまで成長したら「おかそだち」というブランド名で出荷される。生産量は年30トン。東京都心部まで車で1時間という地の利を生かして、コープデリ生活協同組合連合会、高級スーパーの紀ノ国屋、回転ずしチェーンの銚子丸などに届けており、価格も輸入品と同程度まで抑えている。

約1年間かけて育てたサーモンは「おかそだち」というブランド名で出荷する(FRDジャパン提供)

今後は量産化に注力する。昨夏には新たに三井物産、エア・ウォーター、積水化学工業、長谷工コーポレーションなどから総額210億円の出資が得られ、千葉県富津市に量産プラントを建設中だ。生産量は年3500トンを計画しており、令和9年からの出荷を目指している。同時に関東圏を中心に出荷先のさらなる開拓にも力を入れていく。

同社の十河(そごう)哲朗代表取締役CEO(最高経営責任者)は「養殖サーモンは大きい市場なのに国産が少ない。(チャンスであり)大規模化に向け生産施設を拡張していきたい」と話す。将来的には需要が伸びるアジア圏での展開も視野に入れているという。

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