新宿の〝大自然〟 多様な生態 中央公園ビオトープ開設20年
新宿中央公園のビオトープ開設から20年。都会の中で生き物と触れ合う機会に。
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新宿中央公園(東京都新宿区)の片隅にあるビオトープ(生物の生息空間)が4月で開設から20年の節目を迎えた。施設を運営する「新宿中央公園ビオトープの会」に結成当初から参加し、現在は会の代表を務める板本由恵さん(80)は「たくさんの子供たちに来てほしい」と話し、都会の中の〝小さな大自然〟をアピールしている。
3月下旬のある晴れた午後、春の日差しを反射して水面がまぶしく光る池をのぞき込むと、まっ黒な生き物が川底をびっしりと埋め尽くし、せわしなく動いているのが見えた。
無数のオタマジャクシだ。会によると、アオガエルの幼生だそうで、その数は1万匹以上にものぼるという。「近くの住宅街や(柵で隔てられた)中央公園の方から、この池まで卵を産みにやってくるのよ」と板本さん。生まれたばかりなのか、近くには半透明の卵のカラも浮いていた。
平らな石の上ではメダカの群れが体を休め、池の周囲ではフキをはじめとした植物や草花が育ち、チョウがひらひらと舞う。地方の田園と見まがうような、のどかな光景が新宿のど真ん中に広がっているのだから驚きだ。見上げると、都庁舎のツインタワーがすぐ近くにそびえ立っている。
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ビオトープは自然の生き物が住みやすいような環境を人為的に整えた区域のことで、環境意識の高まりとともに、教育機関や行政などが主導して国内各地で整備が進められてきた。
新宿区では、それまで都に貸していた区画が返却されることになり、ビオトープの設置を決めたのが約20年前。担い手を公募したり、池などの設置工事を進めたりなどの準備を経て平成15年に稼働した。
「なるべく人の手を加えず、もともと新宿にあった生態系を復活させることを目指した」。区みどり公園課の八住美季子係長は開設当時をこう振り返る。「区職員も公募で集まった人もみんな素人。手探りで始めた」という。
板本さんもその時に応募した一人だ。ドイツでビオトープを見て「こんなにすてきな施設があるんだ」と感動したことがきっかけで、帰国後、地元・新宿区での募集を知り、早速応募したという。
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それから20年。板本さんは会員らとともにビオトープを大切に管理してきた。この間には「池にザリガニが持ち込まれてヤゴ(トンボの幼虫)を見かけなくなったり、カメが住み着いたり」といった苦労も。
ビオトープは約1千平方メートルと広くはないが、草木類約180種、昆虫類約110種のほか、魚類や鳥類など多くの生き物が確認されているという。田んぼも設け、近隣の小学校との連携により、児童らに田植えや収穫といった授業のプログラムも実施している。
板本さんは「都会の中で生き物と触れ合う機会が少ない子供たちには、ぜひ実際に虫を捕まえて触ってみるという体験をしてもらいたい」と話している。
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