アートな公共トイレ 「汚い・怖い」イメージ覆す、渋谷区 映画祭で注目

渋谷区で公衆トイレを改修するプロジェクト。独創的なデザインと快適な設備で定着イメージの払拭に挑む。

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世界三大映画祭の一つ、カンヌ国際映画祭で、俳優の役所広司さんが男優賞に輝いた。主演を務めた「パーフェクトデイズ」(ヴィム・ヴェンダース監督)は、渋谷の公共トイレの清掃員として働く日常が描かれている。撮影の舞台となったトイレは「THE TOKYO TOILET」プロジェクトの一環で設置されたが、受賞を機にアートと融合した公共トイレにも注目が集まっている。

「公共トイレの暗い、怖い、汚いというイメージを変えていきたい」。同プロジェクトを日本財団ソーシャルイノベーション推進チームの山田哲子・准チームリーダーは語る。

日本財団と渋谷区は、ソーシャルイノベーションによって社会課題の解決を図る協定を平成29年に締結。協定の一環として、渋谷区内に清潔な公共トイレを設置する「THE TOKYO TOILET」プロジェクトが始まった。

プロジェクトは「性別、年齢、障害を問わず、誰もが快適に使用できる公共トイレ」を目指し、今年3月までに区内17カ所のトイレを改修。デザインには、表参道ヒルズを手掛けた安藤忠雄氏や、新国立競技場の設計に携わった隈研吾氏など、世界で活躍する16人の建築家やトップデザイナーが参加した。

いずれも個性的なデザインで、中でもJR山手線沿いにある「東三丁目公衆トイレ」は、小さな三角形の土地の上に赤一色の外壁がひと際目を引く。山田さんは「女性は犯罪被害などの不安から気軽に利用しにくい。外壁を特に目立つ色にすることで、防犯目的の意味もある」と解説する。

隈研吾氏が手掛けた「鍋島松濤公園トイレ」の内部(日本財団提供、永禮賢撮影)

隈氏が手掛けた「鍋島松濤公園トイレ」は、外壁には約240枚の吉野杉、内装にもサクラやメタセコイアなどの端材が再利用され、緑豊かな公園と一体化しているのが特徴だ。もちろん、デザイン性の高さだけではなく、快適な使用空間として随所に創意工夫が凝らされている。

一方、カンヌ国際映画祭の受賞後は、自治体からの問い合わせが殺到。山田さんは「建てて終わりではなく、どうやって維持管理をしていくかが課題」と話す。一般的に公共トイレの清掃は1日1回のケースが多く、「公共トイレは汚い」という定着イメージの払拭には、丁寧な維持管理がカギを握る。

同プロジェクトでは1日2~3回行う通常清掃のほかに、1カ月に1回の定期清掃、年1回の特別清掃を実施。さらに月に一度は「トイレ診断士」による診断も行う。また、関係者による協議会を毎月開催し、清掃報告や利用状況を把握しながら、維持管理に向けて業務の改善を図っている。

山田さんは「公共トイレをどう維持していけばいいのか。よく『日本のトイレはきれい』とも言われるが、公共トイレが話題に上ることは少ない。従来のイメージから脱却し、ポジティブに捉えられるトイレを、多くの人に利用してもらうことで発信していきたい」と意気込む。

筆者:吉沢智美(産経新聞)

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