【がんばろうVietnam!】日本のトイレ文化を世界へ、支えるTOTOの現地戦略とは

TOTOベトナムは老朽化した地方の学校の修復建築活動をボランティアで行っている。

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「まさか、入社して田舎の学校へ通う子供達を助けるお手伝いができるなんて、考えてもいませんでした。とても幸せな気持ちです」

オンラインを通してTOTOベトナムの労働組合執行委員長のHaiさんが熱く語る。TOTOグループの社会貢献活動についての記者説明会をオンラインで視聴させていただいた時、私が一番印象に残ったのは、Haiさんのこの言葉だった。

経済発展の著しいベトナムでは、常に前年同月比の成長率が経営会議のメインテーマとなる。

ベトナムを支える基幹のIT産業でTOPを走る大企業幹部は、前年比200%増のノルマを3年間達成していたが、4年目が届かず解雇された。

私はその女性幹部と面識があったので、後で聞かされた時は正直耳を疑ったが、同時に今のベトナムならあり得る話だろうと感じた。

利益を求めて凌ぎを削る成長意欲は、そのままベトナムの勢いに直結している。

そんな視点が当たり前のベトナム社会において、TOTOベトナムは老朽化した地方の学校の修復建築活動をボランティアで行っているというのだ。

きっかけは学校に行けない女の子の夢に触れたこと

ベトナム戦争が終わって50年近く。産業復興が盛り上がる傍らで、ベトナムの辺境地域の貧村に建つ学校は、維持資金が届かず老朽化が進んでいた。

柱がシロアリに食われ倒壊寸前の校舎や、雨風がしのげない教室など、劣悪な環境に加えて遠すぎる通学路、そして飢餓や貧困により学校に行けない子供達がたくさんいる。

The front of an old, rundown school building with a falling-apart wooden fence and people standing in the courtyard
Binh Minh 建て替える前のNa Pan村のBinh Minh幼稚園(写真提供:TOTO)

それまでもTOTOベトナムとして、学校で使う文房具や冬コートの寄付など地道にボランティア活動を続けていた。

そんな折の2016年、学校に行きたくてもいけないある女の子の夢に触れる。

「学校に行きたい、そして勉強して先生になりたい」

そこからTOTOベトナムの教育を中心とした社会貢献活動の方向性が固まる。

パートナー企業からの協力も得ながら、2017年から本格的に開始した学校建設は、現在まで15校、総勢2000人以上の子供達の「学校へ行きたい」夢を叶えてきた。

TOTO全社員に貫かれている「先人の言葉」

1917年より創業し、今日で100年以上続くTOTOの社歴。

既に世界18カ国・地域で事業展開し、温水洗浄便座「ウォシュレット」の全世界合計出荷台数は6000万台を突破する。

そして、TOTOがベトナムで事業を始めて22年になる。

ベトナムの経済発展に歩調を合わせるように、ウォシュレットの設置台数を伸ばしてきた。この快進撃を支える経営哲学がTOTOグループにはある。

初代社長から二代目社長に送られた書簡「先人の言葉」で、代々大切に受け継がれている。

「どうしても親切が第一、良品の供給、需要家の満足が掴むべき実体で、その実体を握り得れば、結果として報酬という影が映る」

この書簡には実は続きがあり、この後に「利益という影を追いかけていては一生実体を捕らえずして終わる」と言う厳しい諫めの言葉で締めくくられている。

そしてこの教えを行動に移し、背中を見せながら部下に指導をするという企業文化が脈々と引き継がれているのだ。

TOTOが社会貢献に力を入れる理由は、単なる戦略的なCIに基づいた取り組みレベルではなく、長年企業哲学として染みこんだ経営の理念が一人一人に浸透している結果なのだと気付かされる。

自国の貧村に学校を建て、学ぶ機会を子供達に提供できたことが幸せだと言うHaiさん。

破竹の勢いでベトナムの売上を伸ばすTOTOの根っこの原動力は、「利益の影」ばかりを追いかける他のベトナムローカル企業とは一線を画した経営目線であることを、Haiさんは実感しながら日々実務に打ち込まれている。

ベトナムで12年間トイレを見続けて

私がベトナムの首都ハノイに赴任してきたのが2011年。日本から赴任してきたお客様に住まいを提供するお仕事なので、毎日賃貸アパートをご紹介してきた。

赴任当時、バイクで溢れかえる市内道路に信号さえ余りなかった時代に、「温水洗浄便座」などほとんど見かけることはなかった。

たまに5つ星ホテルや空港などでTOTOやINAXの洗浄便座を見つけ感心をしたのを思い出す。しかし普及度合いは、どちらもどんぐりの背比べだった。

そもそもベトナムの便器の形は、日本で見たことのないコの字で角張ったものが多く、丸い日本の洗浄便座は「収めにくいのか」と思っていた。また、洗浄便座の概念がない普及前夜のベトナムに、当たり前だが便器脇に電源を確保する施工習慣などあるはずがない。

日本でウォシュレットに慣れていたお客様から「どうしても」と言われると、離れた洗面台にある電源から壁を伝って配線を伸ばし、無理矢理設置をするしかない。

しかしこれもトイレの壁に穴をあける施工を許してくれるオーナーにかぎり設置可能という狭き門だった。

ところが、電源確保やオーナーの施工許可問題を、なんと一気に解決する製品をTOTOは市場投入してきた。

The white lid of the Ecowasher toilet seat made by TOTO. You can see a hose hooked to the wall.
ハノイのTOTOショールームの「eco washer」コーナー(2024年3月27日、田口庸生撮影)

それが東南アジア仕様、「電源不要のeco washer」だった。

文字通り電源要らずなので、洗浄水はお湯ではなく水になる。また便座は当然ウォームレットではない。

しかし、ベトナム南部ホーチミンは常夏で、北のハノイは湿度の高い亜熱帯気候。日本の切れるような冬に比べて、ベトナムの冬など大した寒さではないので、すんなり受け入れられた。

「しかし電気が使えないのにどうやってノズルを動かすの?」

驚くことに、便座に取り付けられているレバーをひねって水圧だけで出し入れする仕組みだ。ノズルが汚れず長く使えるように考え抜かれた「ノズルからの吐水角度43度」の快適さを、従来タイプの3分の1の価格で実現したTOTOの技術力と着眼力には感服する。

その当時の問題点を全てクリアしたこの「eco washer」が、洗浄の優しさも相まって飛ぶように売れた。

TOTOのウォシュレットがベトナムに広がる起爆剤になったのは確かだ。

日本のトイレを世界のショールームへ

「お尻だって洗ってほしい」という鮮烈なコマーシャルが今だに記憶に残るウォシュレットは、使って初めてその良さを実感できる。そして一度使えば手放せなくなる。

そんな体験型の商品だからこそ、使ってもらえる場所を更に増やしていく取り組みが大事であることを、TOTOの皆さんは口を揃えて言う。

そして2016年にホーチミンに、2021年にはハノイのAクラスビル(最高水準の設備とサービス基準を満たしたビル)に、体感型直営ショールームを開設した。 TOTOの「きれい」へのこだわりや新しい生活様式には欠かせなくなっている非接触商品(自動水栓など)の特長など、TOTO独自の技術と文化を世界に発信しながら、ベトナムでの更なるブランド力のアップを進めている。

ハノイのTOTOショールーム(2024年3月27日、田口庸生撮影)

昔の「はばかり」から今の「レストルーム」まで、トイレの社会的地位を上げることができたのは、ひとえにTOTOをはじめとする日本の温水洗浄便座メーカー各社の奮闘努力に寄るところが大きい。

しかし綺麗好きの日本で花開いたトイレ文化を、他国でも同様に開花させ、更に深化を図るにはどうすればいいのか。

単に「利益の影」を追い求めるための「良品の投入」にとどまらず、「TOTOイズム」を理解するHaiさんのような現地スタッフを一人でも多く育てること。その国の文化にまで昇華させる原動力は、やはりその国の現地の人材が担うべきなのだ。

ハノイのTOTOショールーム(2024年3月27日、田口庸生撮影)

「日本のTOTOではなく、その国のTOTOになる」

進出した国の誰もが喜んでもらえる社会貢献活動は、そんな葛藤から自然に生まれてきたポリシーだといえる。

TOTOの海外売上比率は、2001年の8%から2022年は27%、約20年で3倍強に伸びている。

世界の国の数だけ文化の違いはあるが、トイレの快適さに国境などない。

トイレのおもてなしを地で行くTOTOのウォシュレットが世界中を席巻する日は、そう遠くない気がする。


田口 庸生(たぐち・つねお)大阪府出身。関西大学経済学部を卒業して以来、一貫して不動産営業の仕事を続ける。2011年より大和コーポレート株式会社 取締役 海外不動産事業本部長としてベトナムの首都ハノイへ赴任。不動産仲介会社 「ハノイリビング」を立ち上げGeneral Directorに就任。日本人向けの不動産事業兼アドバイザーを12年間務め現在に至る。同時に「Japan 2 Earth」のベトナム担当として、環境問題に対する日系企業、ベトナム政府の取り組みを発信中。Twitter (X)でフォロー。

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