北海道のつくし奨学・研究基金、奨学生400人に

北海道のバイオ企業「アミノアップ」が始めた奨学金制度「つくし奨学・研究基金」の奨学生が今年、400人に到達した。研究と生活の両立に悩む若い研究者の支えになっている。

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医学・薬学の研究に従事する若き研究者たちを国籍関係なく支援する奨学金がある。返済する必要もない。北海道のバイオ企業「アミノアップ」(札幌市)が立ち上げた「つくし奨学・研究基金」(以下、つくし奨学基金)だ。7月に札幌市で開かれた統合医療機能性食品国際学会の国際交流会に集った奨学生やOBらにインタビューしてみると、生活と研究を両立させる苦労が見えてきた。

家族を養い、研究活動

7月19日。札幌市で開かれた国際交流会に、今年度の奨学生やOB、関係者ら約100人が集った。

「つくし奨学基金の奨学生に選んでいただき感謝します」という謝辞の後、奨学生代表の一人として発表したのが、北海道情報大学大学院修士1年生、ヤレゲム(YaleGemu)さん(25)だった。中国・内モンゴル自治区出身のヤレゲムさんの研究テーマは「地域住民のヘルスリテラシーと健康状態の関係解析、ナッジ理論を活用したAIアプリの開発」だった。

ヤレゲムさんは、「モンゴルでは畜産が盛んですが、知識が不十分で肉や乳などを十分に加熱せず、ブルセラ症(家畜の感染症)が頻繁に発生します。そうしたことを起こらないように行動変容するにはどうすればいいかを研究したいと思って来日しました」と語る。

ヤレゲムさんは私費留学生。家族からの仕送りを受けて埼玉の日本語学校で日本語を学んだ後、酪農学園大(北海道)に進学。卒業後は、自分の力で大学院に進むためにいったんは民間会社に就職。約1年間勤めてお金を貯めた。

学生の時に知り合った妻と結婚、現在は3歳の長男と3人家族という。

ヤレゲムさんは「奨学金のおかげで週4~5日のアルバイトを週2回に減らすことができるようになります」と話す。

奨学生代表として発表したヤレゲムさん㊧と長尾日香里さん

研究に専念

奨学生の研究テーマはポスターで発表されていた。

研究内容を説明していた札幌市在住の北海道科学大学薬学部博士課程2年、太田夏樹さん(27)は「奨学金のおかげで研究に専念できます」と話す。

太田さんは青森出身。実家から月10万円の仕送りと、高校時代のアルバイトで貯めた貯金を取り崩して生活費と学費を賄ってきた。

「札幌では住宅費に5万円ぐらいかかります。薬学部は6年間あり、居酒屋でアルバイトをした時もあったのですが、学業に影響が出てしまいました。貯金も尽きてしまうので奨学金はとても助かります」と話す。

当面、両親に仕送りを続けてもらう。サポートしてくれる両親にどんなに感謝しても感謝し足りないという。

「医療に貢献したい。それが両親への恩返しだと思う」と話す。

太田夏樹さん㊧と北海道科学大学の若命浩二教授(杉浦美香撮影)

創業者の夢の実現

つくし奨学基金の歴史は25年前に遡る。株式会社アミノアップとその主力商品「AHCCⓇ」の販売に関わる企業、共同研究の大学の先生たちが立ち上げたもので、「人格なき社団」として1999年、設立された。

ただ、基金にせっかく寄付してもらっても税金がかかってしまう。このため、NPO法人などを経て2017年、税金がかからない公益財団法人に転換した。

奨学生には21カ月間にわたって毎月10万円を給付。奨学生は研究成果を定期的に報告する義務はあるが、お金を返済しなくてよい。

第1期生は8人でスタート。毎年15人~20人前後に給付してきた。今年20人の奨学生が誕生し、計400人に到達した。2023年度までに給付した総額は約7億5千万円にのぼったという。

アミノアップ創業者、小砂憲一会長は「若者が存分に勉強、研究できる環境が国を支える」と話す。大学時代には学生運動に身をおき、社会を変えたいという想いを起業により実現した。

アミノアップの小砂憲一会長(杉浦美香撮影)

国籍を問わない奨学金

つくし奨学金は「日本で勉強、研究活動をしている学生・若手研究者」というだけで国籍は問わない。

台湾国籍で1歳から沖縄で育った北海道大学博士課程、李承峰(Lee Chenfung)さん(25)は初めて奨学金に応募したという。

琉球大学医学部保健学科で臨床検査技師の資格を取得したが研究が面白くなり、病気の解明がしたいと同大の修士を経て、北海道大の博士課程に進んだ。現在は生活費を抑えるため大学の寮で暮らしている。

「公的な奨学金は、日本国籍でなければ応募できないことがあり、つくし奨学基金は国籍を問わず助かりました。大学、修士時代は塾講師のアルバイトをしていました。今はせっかくの研究環境なので、研究に専念したい」と話す。

つくし奨学基金では、第1期からポーランドの留学生を採用。以来、奨学生400人中留学生は124人と約30%に及ぶ。国籍では、中国が86人と多く、インドネシア(14人)、韓国(9人)と続き、ジンバブエやスーダン、エジプトなど13カ国に及ぶ。

自分の研究テーマを奨学生仲間に説明する李さん(杉浦美香撮影)

奨学生OBからのエール

2012年度の奨学生だった大阪公立大学医学部の宇留島隼人准教授(45)は「ちょうど長男が生まれたところだったので、本当に助かりました」と振り返った。

宇留島さんは、鳥取大学農学部獣医学科(現・共同獣医学科)を卒業、獣医として働いていたが、勤務していた動物病院が閉院になるのをきっかけに大阪大学大学院医学研究科の大学院に進む。大学時代は、日本育英会(現・日本学生支援機構)の奨学金を受けていたという。卒業後は働きながら毎月、奨学金を返済していたが、再び学生生活に戻った。

「妻が働いていたのですが出産、子育てもあります。週2回の臨床獣医のアルバイトだけでは、学生生活を送れませんでした」と宇留島さん。

育英会の奨学金は2年前に返し終えたという。

奨学生OB、宇留島先生(杉浦美香撮影)

宇留島さんの教え子の中国人留学生、辜瓊雅(Gu Qiongya)さんも2022年度、つくし奨学基金の奨学金を受けた。

辜さんは「コンビニエンスストアの深夜バイトで学費の一部を補填するつもりでしたが、奨学金のおかげでバイトに追われて学業に手がつかなくなるようなこともなくなりました。研究と学業に集中し、充実した研究生活を送ることができました」と、感謝しているという。

奨学生は未来への投資

つくし奨学基金の代表理事で北海道大名誉教授の細川眞澄男さんは「若い人たちの研究を助けたいという基金の趣旨に賛同して、お役目をさせていただいています。私自身も、大学時代に日本育英会の奨学金をもらっていました。大学生で結婚していましたので、本当に助かりました」と自身の思い出を話す。

つくし奨学基金代表理事、細川氏(杉浦美香撮影)

当時の日本育英会は奨学生が教職につくと奨学金返済の免除の制度があったため、細川さんは返済せずにすんだという。

「つくしの給付型の奨学金は若手研究者にとってありがたいものになっています。基金は何も要求していません。奨学生の恩返しは、医学・薬学の進歩のために、知識・技術をみがくことです」と奨学生にエールを送った。

若手研究者のサポートは、未来への投資になっている。

つくし奨学基金奨学生とアミノアップ会長、小砂氏(左端)

アミノアップはJapan 2 Earthのロゴパートナーです。

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