温暖化の謎解明へ海中ロボ初投入、ガチャピンも同行 64次南極観測隊出発

11月11日、第64次南極観測隊が南極・昭和基地に向け出発した。地球温暖化が氷河に与える影響を観測するため自律型無人海中ロボットを投入する。

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南極・昭和基地に向け、第64次南極観測隊(伊村智隊長)が11月11日、観測船「しらせ」で東京・青海を出発した。地球温暖化が南極の氷に与える影響を解明するため、今回は厚い氷の下に潜り込めるAUV(自律型無人海中ロボット)を初めて投入。昭和基地があるリュツォ・ホルム湾で氷河の下部の形状や海底地形、水質などの観測を行う。期待される成果などを国立極地研究所の中村卓司所長に聞いた。

-64次隊は東南極最大級のトッテン氷河を重点的に観測する予定だが、狙いは

「南極の氷は多くが東側にあり、氷の下に暖かい水が入り込んで急激に溶けているといわれている。しかし、気温や海水温の上昇で南極の氷がどのように、どれだけ溶けるのかは分かっていない。さまざまな機器を使って、海中の温度を上から下まで測るなどして、温暖化の謎に迫りたい」

インタビューに答える国立極地研究所の中村卓司所長=東京都立川市(芹沢伸生撮影)

-他にはどんな活動を行うのか

「3回目の氷床コア掘削も準備する。南極大陸の厚い氷には地球環境の変動の痕跡がある。これまでに、72万年前の氷を掘り、過去の気候を分析した。さらに、100万年前までの氷床コアを掘り、地球の氷期、間氷期を調べる」

-南極で観測を行う意義は

「現在、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書は『人間の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない』としている。地球上の氷の9割がある南極の変化が、地球全体の気温や海面の上昇のカギを握っている。地球の将来を見るには昔の気候を調べることも重要で、南極の氷を掘って過去の地球の履歴を知る重要性も増している」

-一方で世間の南極観測への関心は薄れている。今回はフジテレビの取材班が同行し、ガチャピンが現地からリポートするそうだが

「地球環境への危機感の高まりもあり、科学観測としての重要性を再認識してもらいたい。ガチャピンには南極観測業務に加え、昭和基地の当直も体験して、日々の隊員の暮らしを伝えてもらえたらうれしい」

64次隊を乗せた観測船「しらせ」の出港を見送るガチャピン=11月11日、東京・青海の東京国際クルーズターミナル(芹沢伸生撮影)

-第1次南極観測隊の出発は66年前の昭和31年11月。観測が始まった経緯は

「32~33年に行われた学術的な国際協力事業・国際地球観測年の一環で派遣が決まった。当時、南極は未知の世界。探検はしてきたけど、皆で観測をして南極を知ろうとなった。その準備で日本は1次隊を送った。結果は南極に基地をつくり、初期的な観測も行うなど大成功だった」--これまでに日本の観測隊が上げた成果は

「一番はオゾンホールの発見。57~60年の中層大気国際共同観測計画で観測を強化し、オゾンの減少に気付いた。最初は機械の故障を疑ったが、英国の観測データも減っていて『本物だ』と。次は隕石(いんせき)。10次隊が初めて発見してから約1万7000個を集めた。火星や月のものもある。3つ目は氷床掘削。日本人は精密な測定が得意で、分析精度も高いのが強みになっている」

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