日本のプラリサイクル率の闇 真の再生へ不可欠な技術革新

環境負荷の低減にはプラスチックを素材として再利用することが重要で、そのためには技術革新によるコストダウンが不可欠。

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2021年の日本のプラスチックリサイクル率は87%。一見すると〝環境先進国〟だが、日本は欧州と異なりプラスチックを焼却し熱エネルギーとして再利用する方式もリサイクルと定義しているため、見かけ上の数字が高くなっているのが現実だ。環境負荷の低減にはプラスチックを素材として再利用することが重要で、そのためには技術革新によるコストダウンが不可欠。静電気を使った選別や分別いらずの新技術など、日本企業による開発が進められている。

実は低いリサイクル率

リサイクルには、廃プラスチックを粉砕し原料として再生する「マテリアルリサイクル」、化学的に分解し石油やガスとして再利用する「ケミカルリサイクル」がある。日本ではさらに、焼却しエネルギーとして利用する「サーマルリサイクル」をリサイクルと定義しており、これが日本のプラスチックリサイクルの大部分を占める。

プラスチック循環利用協会(東京)によると、21年のリサイクル率は87%。サーマルリサイクルは62%、マテリアルとケミカルは計25%だった。サーマルリサイクルは回収された熱が発電に使われるなどして環境に貢献する一方、焼却で二酸化炭素が排出され、カーボンニュートラル達成への課題にもなっている。

欧州の20年の統計では、マテリアルとケミカルによるリサイクル率は合計で平均35%と日本より高く、資源循環の取り組みが進んでいることが分かる。欧州企業はPRの一環としてもリサイクルを進めており、英ユニリーバは25年までに同社のプラスチック容器すべてをリサイクル・リユース(再使用)可能にすると宣言。スイスの食品・飲料メーカー「ネスレ」も25年までに包装材料をほぼすべてリサイクル・リユース可能にするとの目標を掲げている。

問題はコストだ。容器などのリサイクルには、一から新しい容器を製造するのに比べて数倍のコストがかかるとされ、商品価格への影響は避けられない。地球環境や社会にとって倫理的に正しい商品を選ぶ「エシカル消費」の概念が普及している欧州ではコストの高さは比較的受け入れられやすいものの、やはり根本的なリサイクル率の上昇にはコスト削減が欠かせない要素となる。

AI活用も視野

細かく砕かれたプラスチック片が空中で急に向きを変え、左右のかごに分かれて落ちていく。まるで手品のようだが、三菱電機で使われている、プラスチックの種類による帯電特性の違いを利用したリサイクル技術だ。

プラスチックを再利用するには種類ごとに分別する必要があるが、同じ種類でも形状や硬さが異なることが分別を難しくしている。そこでプラスチック同士をこすり合わせて静電気を発生させ、プラスに帯電したものとマイナスに帯電したものが引き合う性質を利用して分別するのが「静電選別」と呼ばれる技術だ。

三菱電機が開発した静電選別の試験装置(同社提供)

三菱電機は1990年代から同技術の開発を進め、2010年には高精度で分別する独自技術を確立。子会社のグリーンサイクルシステムズ(千葉)を設立し、家電由来のプラスチックなどのリサイクルですでに利益をあげている。

研究開発を担う三菱電機先端技術総合研究所環境・分析評価技術部の中村保博氏は「ほかの方法では難しいプラスチックの混合片などにも対応できる。かごの高さや幅などを微調整して精度を高めるノウハウも蓄積している」と自信を見せる。

三菱電機は今年7月、これまでグループ内で活用していた静電選別技術を24年度をめどに事業化して装置の導入などのサービスを展開する方針を発表した。これまで家電の主要プラスチック3種類の分別に対応していたが、花王など他業種14社からサンプル提供を受け、対応範囲を広げるための検証を行っている。将来的には人工知能(AI)を活用して、自動での最適な分別を可能にする製品の開発も目指す。

分別いらずの新技術

分別が必要なマテリアルリサイクルを推進する三菱電機に対し、分別不要なケミカルリサイクルの技術開発を進めるのが、ごみ処理プラントなどの開発・製造を行う荏原製作所だ。同社はプラスチック以外も混ざった混合ごみから再生プラスチックの原料などになるガス成分を取り出す技術を30年をめどに実用化するという。

plastic recycling
住友化学のケミカルリサイクル技術で作られたアクリル板(左)。右は、石油を原料とした通常のアクリル板。品質は変わらない=7月6日午後、愛媛県新居浜市(©Sankei)

2つの部屋に分かれた炉の内部に砂が敷き詰められており、投入されたごみは最高900度以上の高温でガス化された後、再生プラなどの原料が含まれた生成ガスと排ガスに分けて取り出される。温度を調整することで、生成ガスの成分を調整し、用途に応じた物質を取り出すことができる。精度やコストなどの課題はあるものの、分別が不要になることで、リサイクル率の向上が期待できる。

同社環境カンパニー事業企画部の佐藤郁磨氏は「関連産業分野とコミュニケーションを密に取りながらケミカルリサイクルの社会実装につなげたい」と意気込む。

近畿大経済学部の石村雄一准教授(環境経済学)は「リサイクル率を引き上げるには技術革新によって再生プラの品質を上げ、コストは下げる必要がある」と指摘する。再生プラはコストと品質の問題から需要が低いといい、「環境貢献というだけでなく、再生プラを使うことが企業にとって利益につながるようになることが重要だ」と話した。

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